2024年7月29日(月)

インドから見た世界のリアル

2024年7月29日

 これは、アメリカの生産能力が高いから実現したこともあるが、アメリカは量産するために多くの工夫もした。例えば、強力な重戦車の生産をキャンセルして、中戦車の生産に、できるだけ一本化し、より大量生産・大量配備を狙ったのである。

 同じように、日本に対してもそうであった。空母の定義にもよるのだが、真珠湾攻撃の前、日本は9隻の空母を持ち、アメリカの7隻よりも多かった。日本の方が空母を重視していたからである。しかし、戦争の最中、日本は16隻の空母を建造したのに対し、アメリカは約160隻の空母を建造し、自国海軍に配備しただけでなく、イギリスにも30隻以上、供与したのである。

 つまり、アメリカが示したのは、ドイツや日本が採用した新しい戦い方のアイデアが短期的には大きな効果を発揮しても、そのアイデアが知れ渡ってしまうと、その後は、物量が勝敗を左右することであった。

 筆者がアメリカに滞在している時、アメリカの物量の技術について、経験したことがある。それはアンドリュース統合軍基地での航空祭の時であった。

米国の航空祭の集合場所として使われたスポーツ施設(筆者提供、以下同)

 何万もの来場者が来ることが予想されるため、アメリカ軍は大規模なシステムを整えていた。まず、集合場所は、航空祭の会場から遠く離れたスポーツスタジアムにする。そこにつくと、巨大なゲートでテロ対策として荷物検査が行われる。

集合場所には、大量のスクールバスが準備されていた

 そこで、土日は使われていない大量のスクールバスを何百台も借り上げておき、荷物検査が終わった観客は、バスに載せられ、長い車列となって航空祭の会場に向かう。バスには1台1台、案内役の米軍人とバスの運転手が乗っている。

会場に向かう道には、バスが連なる

 帰りは逆順である。アメリカが、いかに物量を重視しているか、わかる経験であった。

なぜAIが重要か

 以上から考えられる、戦争における重要なポイントは何か。少なくとも3つ考えられる。優秀な人材をそろえることが強い軍隊を形成する最も重要な要素であること、10万人の優秀な人材によって短期間で300万人に増やすことができるような効率の良い指揮系統を整えること、新しい戦い方が明らかになった時にそのための物量を素早く確保できる体制を整えておくこと、である。

 インドの場合、毎月100万人もの若者が労働市場に入ってきて、十分仕事がない観点からは、有能な人材を軍隊に入れることが可能なはずである。一方で、まだまだ予算的に十分ではなく、給料の良い民間企業との競争もあって、幹部将校の人数は不足している。

 約123万人もの大規模な陸軍、日本の海上自衛隊と同規模の約140隻有する大規模な海軍、約1000機も運用する大規模な空軍を保有しているから、少人数の幹部将校で大規模な兵員、艦艇、軍用機を指揮するシステムが必要になる。AIは、それを大いに助ける可能性がある。

 また、物量に関しては、もともと武器を作るための半導体工場がなく、生産能力に課題が多い。大きな戦争になれば、アメリカやロシアなどからの支援に大きく依存することになる状態だ。


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