2024年11月23日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年9月5日

 イランが行っているとされる作業の性格については、米国政府関係者は詳細を明らかにしなかったが、このところ、イスラエルと米国の関係者の間では、コンピューターモデリング、冶金などの分野を含め、イランが兵器化に関連した研究を行っていることが懸念されていた。そうした作業は、核兵器に必要な部品を準備する作業と実際の核装置の組み立ての間に位置するグレーゾーンである。

 「今やイランは核兵器級のウランの製造技術を獲得したのであるから、次の論理的なステップは政治的な決定がなされた際に核装置を作るのに必要な時間を短縮するため、兵器化の活動を再開することである」とオバマ政権時に米国家安全保障会議(NSC)で勤務したゲイリー・セイモアは指摘した。

 「最高指導者は兵器化の決定を下していないという評価には同意するが、同時に、最高指導者は核の敷居の最も高いところまで科学者が研究をすることを禁じているわけではないと考える」とイスラエル政府の元高官であるアリエル・レビテは述べた。

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米国がイランの評価を変えた理由

 上記の記事は、イランの核活動について、米国の国家情報長官が国防授権法などの規定に基づき7月に議会に提出した報告書について解説したものである。この報告書は、公表版は1頁のみの簡潔な内容であり、非公表の添付資料が付されている。

 デリケートで肝心な部分は非公表部分に記されている。この記事はその非公表部分の内容を取材して報じるとともに、それに解説を加えたものである。

 イランの核活動はわかりにくい。民生用原子力活動としては、到底、合理的に説明できないような活動を行っているが、一直線に核開発に向かっているわけでもない。

 イランの意図についての専門家の間の有力な見方は、イランは「核取得能力(Break out capability)」を構築しようとしてきているというものである。これは、核取得の意思決定さえすれば時を置かずして、それを実現できる能力のことである。つまり、核オプションを保持し、核兵器を製造する能力の取得を目指しつつ、その手前で止める「寸止め」戦略をとっているとの見方である。

 そうした理解を前提とすると、この解説記事で報じられているイランの核活動は驚きでも何でもなく、想定の範囲内の事柄である。考えるべき点があるとすれば、なぜこのタイミングで米国の情報機関が情報評価のラインを変更したかである。


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