2024年9月6日(金)

2024年米大統領選挙への道

2024年9月6日

「経済問題」「移民問題」「最高司令官の資格」

 逆にトランプは経済および移民問題でハリスに対して、アドバンテージがある。米紙ワシントン・ポスト、ABCニュースおよび調査会社イプソスの全国共同世論調査(8月9~13日実施)によれば、ハリスに対してトランプは信頼度において、経済で9ポイント、移民問題で10ポイントの差をつけている。

 トランプは討論会で、富裕層と大企業を対象に減税措置を行うと約束するだろう。法人税率を現在の21%から15%まで引き下げると言う。化石燃料を「掘って、掘って、掘りまくれ」と語気を強めて語り、関連の雇用を創出し、エネルギーコストを引き下げると強調する。また、選挙集会の度に支持者に訴えているように、ハリスの父親はマルクス主義の経済学者だと批判することも忘れないだろう。

 一方、ハリスは討論会で年収40万ドル(約5800万円、1ドル=145円で換算、以下同様)未満の世帯に対して増税しないと約束し、代わりに高所得世帯と大企業の税率を引き上げると述べる。トランプとは対照的に、ハリスは法人税率を現在の21%から28%に引き上げる。

 また、ハリスは食料品価格の高騰や住宅価格など生活に直結した問題に着目し、食料品を扱う企業による便乗値上げの規制、初めて持ち家を購入する際の頭金支援(最大2万5000ドル、約362万円)および、新しく子供が生まれた家庭へ6000ドル(約87万円)の税控除などの経済政策を強調して、中流階級に向けたメッセージを発信する。

 さらに、ハリスは、保守派のシンクタンク「ヘリテージ財団」の「プロジェクト2025」は、トランプの元側近等が中心となって作成した第2次トランプ政権の青写真であり、富裕層に減税を行い、中流階級に増税をすると警告を発して、ここでも中流階級重視の討論をする。

 移民問題ではトランプは、米国内における不法移民による「移民犯罪」に言及し、バイデンとハリスの責任だと責める。また、ベネズエラは犯罪者を米国に送っているので、自国内での犯罪率が低下したと議論して、バイデンとハリスの移民政策が機能していないと批判する。

 その上で、バイデンとハリスによってメキシコとの「国境の壁」建設は邪魔されたと非難して、壁の完成の必要性を強く訴える。

 対してハリスは、西部カリフォルニア州での司法長官時代に、メキシコとの国境を越えて不法に米国に入国した麻薬の密輸組織や人身売買の組織のメンバーを起訴した経験を全面的に押し出して、国境問題にタフな「大統領ハリス」を演出する。

 さらに、今年、超党派で合意にこぎ着けた「国境管理強化法案」を、トランプが共和党議員に圧力をかけて葬った事実を非難し、国境の状況が改善しない責任は、実はトランプにあるという議論を展開する。

 次に、最高司令官の資格である。ハリス陣営は「女性初の最高司令官」が主要争点になるのを避けたいはずだ。というのは、トランプはすでに4年間、最高司令官を経験しているのに対して、ハリスは未知数だからである。

 ただ、世論調査結果をみると、両氏の最高司令官としての能力に大きな差はない。エコノミストとユーガブの調査(9月1~3日実施)では、ハリスの最高司令官の能力に関して、43%が「自信がある」、46%が「ない」と回答し、「ある」が「ない」を3ポイント下回った。一方、トランプについても、45%が「自信がある」、48%が「ない」と答え、こちらも「ある」が「ない」を3ポイント下回った。

 仮に、討論会で司会者から「あなたは最高司令官になる資格があると思うか」と質問されたら、ハリスは何と回答するのだろうか。

 おそらく、ハリスは「私には資格がある」と答えた上で、民主党大統領候補受諾演説で指摘したように、北朝鮮の金正恩総書記とトランプの関係を持ち出すだろう。ハリスは「金正恩はトランプを応援している。トランプはお世辞に操作されやすい。トランプが独裁者に責任をとらせないのは、自分が独裁者になりたいからだ。私は独裁者とは親しくならない。私は米国の安全と理想を弱めることは決してしない(8月22日受諾演説)」と議論し、自分を民主主義の最高司令官、トランプを独裁主義の最高司令官として描き、有権者に選択肢を迫るのだ。

 また、トランプがNATO(北大西洋条約機構)の同盟国に関して「プーチンは好きなようにやればよい」と言って、物議を醸した件にも追求し、トランプは最高司令官として不適格であると議論する。ハリスは、自分は最高司令官として同盟国を重視すると述べるだろう。

 さらに、トランプは民間人にとって最高の栄誉となる「大統領自由勲章」と軍事行動に従事した軍人に授与される最高位の勲章「名誉勲章」を比較して、「大統領自由勲章は、名誉勲章と同等か、はるかに良い」と発言し、軍関係者を不快にさせた件も、トランプの最高司令官としての不適格を示す攻撃材料になる。トランプは2018年、自分の大口献金者のシェルドン・アデルソン氏(故人)の妻ミリアム氏に大統領自由勲章を与えた。

 ハリスはこの発言を取り上げ、米国のために戦闘地域で戦った軍人を侮辱する発言だと議論し、自分は全ての退役軍事に対して敬意を払うと強調できる。

 これらの他に、トランプが8月26日、約40万人の退役軍事とその家族が埋葬されているアーリントン国立墓地において、米兵の墓碑の前で遺族と写真を撮り、「選挙活動」を利用した疑惑についても言及するかもしれない。連邦法により軍人墓地の敷地内での「政治活動」は禁止されているからだ。しかも、この問題もトランプの最高司令官としての適格性に関連する。


新着記事

»もっと見る