勢いがそがれる連邦政府の脱石炭政策
ドイツでは、20年7月に38年までに石炭火力設備を廃止する脱石炭法が成立した。19年の石炭と褐炭火力設備合計4390万キロワット(kW)を22年に3000万kW、30年に1700万kWと徐々に廃止する計画だ。
脱石炭法では、22年春に発表が予定されていたレポートに続き、26年、29年、32年に脱石炭の与える影響を科学的根拠に基づき評価し期限を見直すことになっている。
21年11月に発足した現在の社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の3党連立政権は、脱石炭を38年から1.5度目標達成に合わせ理想的には30年まで早める連立の政策協定に合意した。
しかし、政権内部から不協和音が聞かれ始めた。昨年11月に、FDPのリントナー財務相は、安定供給と競争力の観点から、30年までの脱石炭は不可能であり、白日夢だと新聞社のインタビューに答えた。
22年春に出されるはずの安定供給、電気料金、気候変動を評価するレポートも、エネルギー危機を受け発表が遅れている。今年7月経済気候保護省は、25年の春まで遅れると表明した。FDPは脱石炭法に違反していると非難した。
さらに、ハーベック経済・気候保護相は、脱石炭を30年に早める法を立案する計画はないことを明言し、再生可能エネルギー、代替電源の整備により事業者が自主的に石炭火力を早期に廃止する動きが進んでいるとした。
しかし、産業界からは、代替電源の整備は進んでおらず早期の脱石炭火力は疑問との声が聞こえる。
ハーベック経済・気候保護相は、最近「民主主義を守るためには鉄鋼業が必要」と一見論理が飛躍した発言をしている。その意図するところは、旧東独地域の産業と雇用を維持しなければ、右派政党の躍進を招き民主主義が危機に陥るとの思いにあるようだ。
そうだとすれば、旧東独地域の炭鉱と石炭火力も維持すべきというロジックになりそうだ。
もはや脱石炭の30年への前倒しは困難だろう。支持率が大きく低下している緑の党も、かつての勢いはなく、前倒しを諦めつつあるように見える。
電力需要増に直面している米国でも、いくつかの電力会社は石炭火力の利用延長を打ち出している。エネルギー政策は移ろいやすい。先進国の脱石炭熱もいつ変わるか分からない。