2024年11月22日(金)

生成AI社会

2024年10月4日

 3番目の変形的創造性は、領域自体に変形を加えるような創造性です。この創造性には、考えるべき土台が変わってしまうような変化も含まれます。たとえば天動説から地動説への変化です。地球が宇宙の中心だと思っていたら、まったく違っていたために根本から宇宙観を変えなければならなくなりました。

 ついさきほど書いたように、これら3タイプは重なっていることがあります。進化論は、すべての生き物は共通の祖先から自然選択のなかで複数に進化してきたのであり、人が神の似姿として作られ神から特別に愛されているわけではないことを示しました。人の位置づけが抜本的に変わっています。

 そのため進化論は、ダーウィンが自身の現地調査とマルサスの『人口論』からのヒントとを組み合わせた結合的創造性による理論であることにくわえ、変形的創造性をもあわせもっているといえます。

 キュビズムもそうでしょう。同時に複数の視点から描くキュビズムは、明暗法や遠近法などにとらわれておらず、絵画のルールを変えました。

AIにも宿る「結合的創造」と「探索的創造」

 この創造性の3タイプでいうと、生成AIによるテキストやイメージの生成は、結合的創造性に位置づけられるでしょう。これまでのデータを前もって解析しておき、確率の高い語やイメージを連結させてコンテンツを生成するからです。

 またコンピュータは探索的創造性ももっています。もっとも有名になったのは囲碁でしょう。2016年には世界トップクラスの棋士がAIに敗れました。

 囲碁は打ち手のパターンが10の360乗通りを超えるとされます。これほどの膨大なパターン数になると人が選んだことのない打ち手が存在します。その打ち手でプロ棋士を負かしたことでAIにも探索的創造性が宿っているといわれました。

 創薬の分野でも、スーパーコンピュータを使って病気の原因となる分子に結合する化合物を探索したり、化合物の形を変えながら効き目の高い化合物を探索したりしています。

 新しい薬の開発はかなり難しくなっており、開発期間が10年以上、費用が1000億円以上かかることも多いため、AIを使って効き目の高い化合物を探し当てコストを下げることが目指されています(理化学研究所計算科学研究機構 2014)。

 変形的創造性は、小手先だけの領域の変形というよりも根本的な変形を求める面があります。そのため、過去のデータをもとにして確率的に高い結果を出力するAIなら、この変形的創造性にたどりつくことは少ないといえるでしょう。とはいえ人であっても、このような創造性にはめったにたどりつけません。

 ボーデンの分類にしたがうと、コンピュータの創造性と人の創造性とはかなり連続的に捉えられるのではないでしょうか。結合的創造性や探索的創造性は、コンピュータにもありますし、コンピュータが上回るケースも多々あります。また変形的創造性は、コンピュータでも人でもなかなか発揮することが難しい面があります。


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