2024年10月11日(金)

生成AI社会

2024年10月11日

 そしてこの10年ほどは、機械学習のAIを使った制作が活況を呈しています。徳井直生が書いた『創るためのAI』 では、人とAIとの組みあわせによって生まれた新しい芸術作品が多数紹介されています。AIが出力する間違いや異質さがトリガーとなって表現を拡張する取り組みが具体的に述べられています。

 それだけでなく生成AIは、マーケティングツールのようにも使われています。

 小説のタイトルやあらすじが読者に受け入れられやすいかを評価するAIを自分で作り、その評価を参考にして小説のタイトルをつけたところ、「小説家になろう」のヒューマンドラマジャンルで年間1位、Kindleストアランキングにおいて最高順位1位(ライトノベルジャンル)を達成した人も出ています(※6)。

 また作業の効率化にも使われています。ロゴやBGM、小説の作成や、漫画やアニメの制作を助ける着色や中割の自動化も進んでいます。さらにNetflixにおいては、アニメの背景画像の制作に画像生成AIが使われたことがあります(※7)。

 アニメ業界は、人手不足が深刻で手数が圧倒的に足りず、そのためにAIへの期待が特に大きくなっています。

 画像生成AIであっても、最初のプロンプト(入力するテキスト)で生成された画をそのまま使えることはまずないでしょう。かなり複雑なプロンプトを試行錯誤していったり、生成された画を人が描きなおしたりして、徐々によい画が作られていきます。音楽生成AIや動画生成AIもあります。

 AIを使ったコーディング支援ツールGitHub Copilotを使うと、生産性が向上してストレスが減り、より満足のいく仕事に集中できる人が多いという調査結果があります(※8)。

 また、ライティングの仕事についても、ChatGPT を使えば、生産性が上がり作業時間が少なくなり、そのうえ仕事の質も上がるという報告も出ています(※9)。人と機械が違うことを踏まえて創造の現場が作り上げられてきています。

適切な認知空間を立ち上げるために

 ただ、人と人工物とが一体となった認知や作用の空間を考えるときに忘れてはならないのは、人がいてはじめて場が駆動するということです。

 たとえばサーチエンジンで何でも探せるので何も勉強しないでよいと考える人がいるかもしれませんが、なにを検索語として打ち込むかは人に依存します。あるいは生成AIがあるので勉強しないでよいと考える人がいるかもしれませんが、プロンプトで何を入力するかは人に依存します。

 人によって、どのような認知空間が立ち上がるかはまったく変わってきます。専門用語を知っていたらサーチエンジンや生成AIがよい結果を返せることだったとしても、専門用語を知らなければうまくいきません。適切な認知空間が立ち上がってきません。

 また、そもそも検索結果や出力結果を解釈できなければ、それは認知空間が成立しているとはいえないでしょう。再度、検索語やプロンプトを入れて試行錯誤していくにも、人が起点となります。

 大学に入ると、図書館やデータベースの使い方を習います。図書館やデータベースがあったとしても、使い方を知らないとうまくアクセスできず、認知空間を適切に立ち上がらせることができないからです。

 また授業でさまざまな言葉や意味を知ることで、サーチエンジンに入れる言葉や生成AIに入れるプロンプトが変わってきます。

 くわえて、学ぶ方法自体を学ぶことによって、次々と新しいことが出てくる変化の激しい社会に対応することができるようにしていきます。そのことで人工物に入力する語を変え、また場合によっては使う人工物を変えて対応することができます。

 必要に応じた認知空間を立ち上げていくには、きちんとした教育が必要です。

※6ソフトバンクニュース編集部(2023)「自作AIが評価したタイトルをもとに小説を執筆したら、大ヒットした件。 本業エンジニア、副業作家の社員が語るAIの可能性」『ソフトバンクニュース』2023年5月24日(2024年5月31日アクセス)

※7西田宗千佳(2023)「Netflixが「画像生成AIでアニメ制作」してわかったAIの限界」『Business Insider Japan』(2024年5月31日アクセス)

※8Khalil R, B. Godde , and A. A. Karim (2019) “The Link Between Creativity, Cognition, and Creative Drives and Underlying Neural Mechanisms. Front Neural Circuits” (accessed 2024-05-31)

※9Noy, S. and W. Zhang(2023) “Experimental Evidence on the Productivity Effects of Generative Artificial Intelligence” Science, 381(6654), 187-192

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