「その日のうちに食べてもらいたい」
さて、出入橋きんつば屋の「きんつば」といえば、甘さ控えめの小豆ともちもちとした薄皮です。
「他のお店のものよりも1割程度、砂糖を控えています。皮は小麦に水を混ぜただけです。だから保存が効かないので、その日のうちに食べてもらう必要があります。ただ、すぐに食べない場合は冷凍してもらえれば保存が効きます」
白石さんは「父親から受け継いだ味を変えない」という思いで続けていますが、どうにもできないこともあります。
「小豆はもちろん、砂糖や小麦の値段も上がっています。それでも20年間値上げしていません。消費税が上がるタイミングで値上げを検討しましたが、母親に反対されました」
お母さんは「お客様」を大事にする気持ちがとても強いのです。だから「子連れのお客様が来たら、おまけをあげてしまうこともよくあります」と、白石さんは笑います。お店の前で休んでいるお母さんに、きんつばを買いにきた男性が「休憩中、ごめんね」などと気軽に声をかける様子を見ても、このお店の「看板娘」という気がしてきます。
出入橋で育った白石さん。小学校の同級生は、17人中16人がお店をやっていたそうで、今でもそれぞれの商売で頑張っているそうです。白石さんたちは商都・大阪の面目躍如を果たしているのです。夏季限定のかき氷で使う氷も、氷屋を営む同級生のお店から仕入れたものです。
「出入」という言葉、私自身、とても大切にしています。先に「出す」、つまり自分から先に動くことで、後から「入ってくる」。この姿勢でいつも仕事に取り組んでいます。今でこそ景色は変わってしまいましたが、かつての「水の都」を想像しながら、大阪駅から出入橋の「きんつば屋」まで歩いてみてください。