2024年11月21日(木)

経済の常識 VS 政策の非常識

2024年10月31日

国民民主の財政コストは?

 国民も、社会保険料負担軽減、消費税減税・インボイス廃止、所得税減税を唱えている(国民政策集)。インボイスは手間がかかり、これを廃止しても税収はほとんど減らず、納税者の手間が減るという意味では減税になる。消費税減税は5%にするということだから、これだけでも10兆円程度かかる。半分の11.5兆円でないのは食料品の8%の軽減税率などがあるからである。

 さらにガソリン税の引下げと現在103万円の所得税の基礎控除等の引き上げがある。ガソリン税引き下げは、ガソリン補助金を税率の引き下げに変えるだけだから、財政コストはかからない。

 武藤容治経済産業相は(ガソリン税引き下げは)「ガソリンスタンドや石油元売り会社で大きな資金負担が生じることに関し解決策を見いだすに至っていない」と反対しているが(「武藤容治経産相、国民民主の主張を一蹴 「トリガー条項」凍結解除などに否定的見方」産経新聞2024/10/29)、払っている税金の率を下げるだけだから、余計なコストがかかるはずはない。本連載「ガソリン補助金は問題大ありの政策である経済的理由」でも述べたが、補助金の一部は石油元売りに流れている可能性がある。ガソリン税引き下げに反対し、ガソリン補助金に固執するのは元売りの利益に忖度しているのではないかと勘繰りたくなる。

 所得税の基礎控除を103万円から178万円に引き上げるといくらの財政コストがかかるだろうか。国と地方の所得税は31.5兆円で、日本の雇用者報酬は300兆円。雇用者は5800万人だから1人当たり所得は517万円である。

 517万円-103万円の414万円から税金を取れていたものが517万円-178万円の339万円からしか税金を取れない。すると税金は31.5×75(414-339)÷414=5.7兆円減る(財務省は7.6兆円の税収減と主張している(「消費減税、実現には難題」日本経済新聞2024年10月31日)。たしかに税収は減るが、これにはさらに良い効果がある。働きたいのに働けない人をなくすからだ。

働きたいのに働けない人を減らす

 親の扶養に入っている18~22歳の若者は、年収103万円を超えると親の扶養からはずれ親は扶養控除を受けることができなくなる。その結果、平均的な収入の親で9万円ほど税金が増える。大和総研の山口茜氏によると、親の扶養に入るかどうかの「103万円の壁」を意識して、15~24歳(男性+未婚女性)では、70万人が就業調整を行っているという(山口茜「あえて年収を抑える559万人 就業を阻む「壁」の取り壊しと年金制度改革が必要」大和総研、2018年)。

 豊かとは言えない家庭で大学に進学している若者ではこれが大きな問題となる。多くの親は学費を出しても生活費は自分で稼げと言う。月10万円のアルバイトをすると、11月、12月には親の手取りが減ることになってしまう。年末にかけて若い働き手が就業調整をしてしまうと、雇う方も年末の忙しい時に困る。

 基礎控除を178万円に上げれば多くは解決する。働く時間が増えるのだから国内総生産(GDP)は増える。税収も増える。

 アルバイト学生から余分に税金を取れる訳ではないが、雇う側からは取れる。つまり、所得税だけでは5.7兆円減るが、すべての税を考えれば、それほどは減らない訳だ。税金を取りたい財務省を含め、多くが歓迎する方策だ。他にも就労調整をしている人々はいる。


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