2024年11月21日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年11月21日

 第二に、島嶼の軍事施設は、戦略原潜の「要塞」を守る目的がある。

 中国による南シナ海島嶼への軍事施設の建設は、同海に眠る豊富な石油・天然ガスの開発等の経済的観点もあるが、それ以上に、上記に述べた戦略原潜のための同海の「要塞」化に関連している。

 中国は2010年代初めころから、占領した岩礁等の埋め立てを開始し、続いて各種軍事施設等を建設してきた。中国はすでに西沙諸島、南沙諸島を含む多くの島や岩礁を占領し、続いて滑走路(基本3000m級)、航空機の格納庫、通信・レーダー施設、対空・対艦ミサイル等を建設してきた。

 このような中で中国はこれまで、全体として見れば南シナ海の西・南方の防衛を固めてきた。これに対し南シナ海の東北方(フィリピン西方付近)は、なお十分な態勢を築くに至っていないと見られる。

 最近セカンド・トーマス礁やサビナ礁付近でフィリピンとの衝突が激化しているが、スカボロー礁に同様の軍事施設が建設されれば、中国による南シナ海の全域にわたる防衛態勢の構築が一段と進むことになる。

攻勢的な実力行使へ

 第三に、中国の行動パターンの変化がある。

 中国は20世紀の終わり頃までは、ベトナム戦争終結後の米軍撤退や冷戦終結後のソ連軍のプレゼンス減少など、大国が去ったあとの力の真空を利用する形で南シナ海島嶼の占領を続けてきた。ところが2000年代以降の中国は、そのような「隙を伺う」やり方ではなく、より攻勢的な実力行使に出るようになり、今日に至っている。

 2012年4月以降、中国はスカボロー礁をフィリピンから奪取したが、フィリピンは同年2月、比軍基地の米軍への提供などを規定する防衛協力強化協定を締結していた。スカボロー礁の中国による占領は、米比間の軍事協力が進展する中で行われたのである。その延長に今日の中国の活動がある。

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