商品を生む100の質問
「飲食店をしているのも、体験して買ってもらうことが目的です。すくったときになぜカレーが残るのか。普通のスプーンは、板金をプレスしてつくるので、柄の部分からスプーンの先まで同じ厚みになっています。そのほうがつくりやすいからです。でも、すくうには先が薄いほうがいい。逆に柄は厚みがあるほうが持ちやすい。そこで、製造工程を2、3工夫することで実現しました。スプーンの丸みは水の波紋、つまり自然の流れ、フォークは稲穂に見立てることができる。そんな自然をモチーフにした素直な風景。そこで『SUNAO』というブランド名にしました。これは、新潟の燕振興工業という会社からの依頼でデザインしたカトラリーの一つです」
服部さんは、地域の生産現場に足を運んで困りごとを聞いて回ることから、内装や住宅の設計で個人クライアントに100の質問をすることまで、「リサーチ」することをとても大事にしているそうです。
「アウトプットができるまでは、リサーチが7割程度占めます。例えば地域に行くと、地形を調査して、調査対象の『ある物』がその土地に根差した理由を調査します。次に、継承された(されなかった)歴史を探り、現在から未来を想像する。そして仮説を立てる。ここまでやって解像度が低ければ最初に戻る。そうやってアウトプットにたどりつくのです。過去から未来を考えるという点では、大好きな民藝もそうです。2025年は民藝運動が始まって100年目になります。次の100年を考えていきたいですね」
さて、そんな服部さんが「大阪」に拠点を構え続ける理由とは。
「世界の第二都市って面白いなと思ったんです。例えば大阪であれば、生産を背景に発展した都市です。生活とつくる場所が隣り合わせになっている。『うちのおじいちゃん、鉄工所やってるで』というような。ものづくりが身近にあって、目利きができる、うるさ型の人がたくさんいる場所にいることで自分たちも鍛えられると思ったんです。何より、自分で歩いていける場所に情報がたくさんあることが大阪の魅力です。でも、ふるさとはいくらあってもいいので、47都道府県に気が置けない仲間をつくりたいですね」