2024年12月9日(月)

オトナの教養 週末の一冊

2014年2月14日

ーー南後さんの関心はどんな点からでしょうか?

南後由和さん

南後氏:若林先生の出発点となっている80年代のパルコに代表されるような記号的空間や物語性がもはや素直に受け取られなくなった時代に、私は10代や20代を過ごしてきました。ショッピングモールは、記号的空間や物語性が弛緩し、「ゆるく」なった空間だと思いますね。

 私は、1990年代後半から2000年代にかけての携帯電話やインターネットの普及に代表される情報環境の変化に問題関心があります。そうした変化にともない、我々の時間や空間の感覚が変わってきているだろうと。その変化が、ショッピングモールを通じて読み解けるのではないか、あるいは色濃く現れているのではないかと思ったんです。

ーー時間や空間の感覚の変化とは具体的にどういうことでしょうか?

南後氏:2種類あります。ひとつが、商品を買ったり、フードコートに行ったり、映画を観たり、ショッピングモールで半日や1日過ごせるという「時間消費型」の感覚。もうひとつが、インターネットの普及によって必要な情報を即座に入手できるようになり、買い物においても必要なものをなるべく時間を節約して購入したいという「時間節約型」や「時間短縮型」と言われる感覚です。

 80年代のパルコや渋谷が「あらかじめ」ガイドブックなどで予習してから行く場所であったとするならば、ショッピングモールは「とりあえず」行くところです。とりあえず、そこへ行けば大量の商品や、することがある。お金をあまり持っていない中高生でも半日デートができる場所としてあります。

ーー田中先生はいかがですか?

田中氏:消費社会は、パルコやセゾン文化が脚光を浴びた80年代の系譜の中で語られたりしますが、私自身はモールとそれらとは少し違うリアリティがあるのではないかという実感があります。パルコのような記号的空間のように何かを読みとかなくても、ボーッとしていられる「ゆるい」空間がショッピングモールなのではないかと。

 とくにショッピングモールはコンビニに近いのではと思うんですよ。80年代以降、日本全国にコンビニが普及します。さきほど南後さんが現代の情報環境・メディア環境の変化についてご指摘されましたが、その先駆けともいえるPOSシステム(と高度な物流システム)をコンビニが導入したのもその頃です。このシステムによる徹底した商品管理は、いわば消費者の欲望を先回りして新しい商品をハイスピードで回転させることを目指しています。そうすることで広告・宣伝などで予習をしなくても、とりあえずそこに行けばある程度なんでも手に入る空間になるわけですね。


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