もはや日常的に溶け込んでいるショッピングセンターは、物的な空間だけでなく、私たちの生き方や暮らし方、そこでの感性までもが生み出されていく場所になっている。そう考えると、現在の都市や社会の理論がショッピングモールから見えてくるのではないかと思ったんですね。
ーー田中先生は本書の中で、ショッピングモールと百貨店を比較し考察されています。一定の年齢以上の人には百貨店のほうが馴染みがあるけれども、若者には敷居が高いようにも感じます。
田中氏:私自身、三越などの百貨店とショッピングモールを比べると、百貨店は入りにくさを感じます。
若林氏:私は、百貨店の入りにくさというのは、空間と身体の配置の問題だと思うんですよ。 デパートへ行くと、制服やスーツを着た店員が「何をお探しですか?」と近づいてきて、どうしても店員の視線が気になりますよね。それに対して、ショッピングモールは、広い通路があり、その両脇にテナントが入っている構造が多い。通路は、デベロッパーが管理している空間で、テナントの人たちは、目が合うと「いらっしゃいませ」とマニュアル通りに挨拶はしてくれますが、決して通路へは出てきません。我々が自分を自由にしておける空間の余地が必ず確保されています。
しかし、百貨店では、そういう余地がなく、その百貨店が選んだブランドや世界観の中に直接入っていかなければならない。特に若い世代にとっては、百貨店で販売されている商品は値段が高いというのもありますが、古い文脈でゆるい空間ではないから入りにくいのかなと思います。
田中氏:現在の百貨店自身も、そういったことを自覚していて、ショッピングセンター化しているんです。店舗を入れ替えるだけで、仕入れもしなくなっているので、場所貸し業になってきている。また、エレベーターの横などに飲み物の自動販売機や椅子を置いていたりする。ただ、そうすると百貨店の魅力が中途半端になり揺らいでいるようにも見えます。たとえば、三越という「のれん」と空間と商品が一体になっていた時代から、単に三越という「のれん」だけが浮いているように見えてしまう。
ーーショッピングセンターやモールは、もはや私たちの生活の一部にもなっていると思います。そこで消費者は何を欲し、モール側は何を生み出しているのでしょうか?
若林氏:人々がショッピングモールに求めているものは2つあると思います。1つは、同じようなテナントが入っているにせよ、まったくブランド性と無縁というわけではなく、スタバやZARA、ユナイテッド・アローズなどの定番のブランドのテナントがある。そこで消費者は、さほど都会ではない自分たちの住んでいる地域でも、それらのブランドでコーディネイトや消費を楽しんだりできる選択肢が揃っている。