2024年4月19日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2014年2月14日

 もう1つは、ある種のイベント性を求めているのではないかと思います。消費は、新しい、おもしろいと人々に思わせることによって、欲望を動かしていく部分があります。ショッピングモールが新しく出来れば、その事自体がひとつのイベントになり、また日本初上陸のお店やその地域初登場のお店が出店することでお祭り感を創りだせる。

 そうした日常性とイベント性がうまく機能している場所としてモールがあるのではないでしょうか。逆に、既存の商店街ではそういったことを担えない時代や状況だと思いますね。

ーーモール側は何を生み出しているのでしょうか?

若林氏:今回の本を書くにあたって、三井不動産の商業施設本部の方にインタビューすることができました。その中で「我々は不動産屋なので、物を売るよりも立地の価値を高めるものをつくりたい」という言葉が印象に残っています。また、利益の極大化を求めると、結局ファッションのテナントが多くなり、ショッピングモールとしてはかえってつまらなくなるとも語っていました。人々がモールへ行くと、そこにいることがまず楽しくて、ついでについつい何かを買ってしまうような空間をつくりたいと言うんです。そういうことを考えると、いろいろな批判があるのは承知していますが、モール側は生活のかたちや生き方、時間などを現代の社会に提供しようとしていると思います。

ーー田中先生はいかがですか?

田中氏:人々が求めているものを一言で言うならば「広さのイメージ」ではないかと思います。これには商品選択と空間の2つの側面があります。

田中大介さん

 商品選択の広さとは、幅広いテナントが入っていて、商品が広く揃えられているので、そこへ行けば何でも安心して手に入れられるという意味での広さ。モールはチェーン系のショップが多くなる傾向があるので、その施設を超えたテナントのネットワークの広がりを感じさせてくれます。空間の広さとは、百貨店は高さがあり縦に大きいですが、モールは横に広く、人との距離もある程度確保されているので、その場でゆるくいられるという広さのイメージです。

 ただし、この広さは「イメージ」でしかないという部分もあります。多くのテナントを収容しているとはいえ、価格帯がそれほど広いわけではない。本当にほしいものではないかもしれないけれど、「これでいいか」と納得できる程度の選択の感覚を与えてくれる広さともいえます。チェーン展開しているテナントが多いということは、その施設でなくても買えるということでもありますし。また、モールが空間的に広いとはいえ、そこでいきなり無許可でスケボーやデモ行進はできないでしょう。そういう意味でも管理された広さ、あるいはゆるさでしかありません。


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