2024年7月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年3月11日

 抑止では、相手に与えるメッセージが重要である。ミサイルを打ち返せば、相手は報復があったことが分かるが、サイバー攻撃の場合、マルウェア(破壊工作ソフト)で反撃しても、効果が常にはっきり分かるとは限らない。抑止の目的が何かによって、異なるサイバー兵器が必要である。相手方にメッセージを伝えようとすれば、目に見える効果をもたらすサイバー兵器を使うのが好ましいし、攻撃作戦では、それとは反対の性質を持ったサイバー兵器が有効だろう。

 要するに、サイバー攻撃の種類が増えるにつれ、すでに複雑な抑止の分野がさらに複雑になっている。何が有効かについての検証が十分されない限り、核の対立の時代よりは「拒否の抑止」に頼らなければならないであろう。

 ただ、結局のところ、技術が変わっても抑止の目的が敵の考えを変えさせることであることには変わりない。サイバー抑止はコンピューターのネットワーク上での作戦かもしれないが、それはすべて心の状態にかかわることである、と論じています。

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 サイバー攻撃に対する抑止の問題を包括的に取り上げた論説であり、サイバー攻撃に対する抑止も、核抑止と同じく、受け入れがたい報復の脅しにより、相手方に攻撃が割に合わないことを悟らせ、攻撃を思いとどまらせようという心理的なものであることを強調しています。

 サイバー攻撃における攻撃者の特定が容易でないことは、つとに指摘されており、サイバー攻撃に対する抑止を論じる際の大きな難関となっています。サイバー攻撃に対する抑止の現在の一つの大きな問題は、いかなる報復が脅しとして有効か、ということです。論説は、サイバー攻撃に対するサイバー攻撃による報復の複雑さを述べていますが、サイバー攻撃に対する報復は、サイバー攻撃に限定されるとは限りません。むしろ、大規模なサイバー攻撃を思いとどまらせるためには、通常兵器による報復を明言するほうが有効であるとも考えられます。

 サイバー攻撃に対する抑止の問題は、まだ議論が始まったばかりです。核抑止の場合同様、今後あらゆる角度から知的検討が加えられることになるでしょう。日本としても、サイバー攻撃に関しては、抑止の問題としての軍事理論的側面、自衛権の問題としての法的側面の双方において、同盟国、友邦とともに活発な議論をしていくことが必要です。

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