最後の難関 タクトアップによるコストダウン
精度ある土鍋はできあがった。しかし、これだけでは、IH炊飯器の内釜としては使えない。IH発熱する発熱体を貼り付け、焼き付ける必要がある。
具体的にいうと、離形紙に貼り付けられた発熱体を流水で浮かせ、それを土鍋に貼り付け、焼き、固着させる。
流水を使うのは、プラモデルで使われる水転写デカールと同じ原理だからだ。デカールというのは、プラモなどに使われるシール。プラモデルでは、ペイントされている絵柄の再現に使われる。単なるシールでないのは、曲面に添わなければならないし、余白があってはならないからだ。
プラモデルを作ったことがある人ならお分かりと思うが、このデカール作業は、難しく、神経を使う。塗装も済んだ状態の90%完成プラモデルの、最後の試練。が、何度かやり直すのはザラ。ここで挫折する人もいる。
この発熱体貼りも、同様に厄介な作業で、底面、側面、2つ貼るのだが、当初 20分以上かかっていたという。今では、鮮やかな手捌きで貼り付けていく。それでも1分30秒位かかっている。
この工程がタクトとしては最難関だったという。
炊飯器側の対応
こんなふうに出来上がった土鍋内釜は、「本土釜」と銘打たれ使用される。当然、炊飯器サイドもやさしく迎え入れる。
お釜の底の3つの出っ張り。土鍋の底が金属でゴリゴリ擦れない様にすると共に、正確な距離合わせができる様になっている。IHの効率を最大限引き出すことができる仕様でもある。この仕様はタイガー特有、土鍋内釜用の特別仕様ともいえる。
信じられない精度がもたらす美味しいご飯
2006年から始まった美味しさを追求した高級炊飯器は、今や一芸だけでは認められない。火力、圧力という物理的な力に加え、それを制御するプログラムも詰めに詰められた状態。
このため、いろいろなものが研ぎ澄まされていく。土鍋内釜の今の精度は0.6mmだという。金属の場合、熱膨張を考えなければならないし、樹脂成形でもきちんと成形条件出しをしないとかなり厳しい。
前述の通り、この話は樹脂、金属を使う家電製品の携っている人にとっても、この精度は0.6mmは、かなりの精度。
が、それは全工程を丁寧にやりきることで具現化できる。経済視点が優先される世では、丁寧にとか軽視されがちであるが、このような一つ一つの技術の積み重ねは、とても重要である。
この「本土鍋」が使われるJRX-G060/G100、JPL-T100はタイガーの最高峰。私は、去年に発売された同シリーズの100周年モデルを持っているが、米の旨み、香り、粒立ち、食感などが、非常にバランスよく、毎日のご飯楽しんでいる。
今年の101周年モデルには、発熱体にシラスバルーンという火山灰由来の成分が導入されている。「技術」の探究は終わらない。このペア、今後も大いに期待したい。