2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年2月26日

 さらに、オバマは演説の中で興味深いことを言っている。即ち、自由と安全の綱引きの問題は、9.11後に出てきたわけではなく、建国以来米国がずっと抱えてきた課題である。ただ、この15年でスパイが入手できるデータ量が飛躍的に増大し、使える技術も高度化した。そのため、「われわれの能力を制約するものがどんどんなくなってきており、それだけに、われわれには、何をすべきかについて厳しく自問すべき特別な責務を課されている。ところが、国家安全保障の責任者というものは、どうしてもさらにもっと多くの情報を集めようとするものだ」と言っている。

 これはあたかも、将来の攻撃を防ぐのに役立つかもしれない権力を大統領が自発的に放棄することはあり得ず、だからこそ、議会には大統領の権力を抑える働きをしてもらいたい、と議会に要請しているかのようである。議会はこのオバマの要請に応えるべきだろう、と指摘しています。

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 この論説が指摘しているように、オバマの演説は、今後政府による盗聴についてより厳しい制限を課す必要があるという「姿勢」を示しただけであり、具体的にどこまで制限するかは言っていません。むしろ、この論説によれば、議会に任せて、「議会に政府の手を縛って欲しい」と言っているようにも取れる演説です。

 NSAによる通信傍受の問題は、スノーデンの暴露をきっかけに大騒動となりましたが、スノーデン事件の本質は、情報漏洩事件ではなく、むしろ、反体制的人権運動問題であるように思われます。スノーデンは、政府が個人の秘密を知ろうとしている、あるいは、友好国の秘密を探っている、という、人権問題あるいは国家間の信頼関係の問題として、つまり反体制、反権力運動の一部として、世間に売り込もうとしているものであり、本来の国家の枢要な機密の保持とは関係ない話であるというべきでしょう。 

 今回のオバマ演説は、スノーデンに共感する人権かぶれの主張に迎合したものと言えます。しかも、具体的にどうすると言わず、議会に丸投げする姿勢は、対シリア武力行使の時と同じ発想です。

 この演説があったからと言って、今後のNSAの活動に大きな制約が課せられることはないと思います。われわれ日本人としても、国家的業務に従事して外国旅行する場合は、言動は傍受、観察されていると覚悟すべきであって、それを人権問題、反権力志向で反発するのは筋違いというものでしょう。

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