ここでは為替レートGDPは貿易財の生産性を表すとしているのだが、生産性が29年間にわたってマイナスになるとは信じられない。これはむしろ、何らかの特殊要因によって為替レートが過大に評価され、それが調整される過程でマイナス成長をもたらしたと解釈できるだろう(日本ではバブル崩壊後の1995年まで円高が続いた。ドイツでも1995年頃までマルク高が続いた)。あるいはまた、極端な円高が貿易財産業の海外移転をもたらし、海外展開できない非効率な製造業が日本に残ったからだと解釈できるかもしれない。
日本は産業の生産性を下げた?
こうだとすると、日本は、貿易財部門の生産性を下げて内外価格差を解消したことになる。実際、貿易特化指数(品目ごとの輸出額から輸入額を引いた純輸出額を、輸出額と輸入額を足した総貿易額で割った数値。1とマイナス1の間に収まり、1に近いほど輸出に特化しており競争力を持つことを示す)で見ても、電気機械、情報通信機械など日本の多くの産業が輸出競争力を失っている(例えば経済産業省経済産業政策局「経済産業政策新機軸部会 第3次中間整理 参考資料集」スライド67、2024年6月)。
これでは日本経済が停滞したのは当然だ。一方、前述のように、韓国では内外価格差があったことはない。すると、極端な円高が内外価格差をもたらし、それが解消する過程ですべての産業の生産性が下がったのかもしれない。
韓国1カ国だけの例では心もとないので、主要国の内外価格差の推移を示したのが図2である。図に見るように、日本のように極端な内外価格差のあった国はない。韓国はもちろん、経済好調な台湾も逆内外価格差の国である。現在の日本は、やっと他国並みの逆内外価格差の国になっただけである。
内外価格差は内々価格差で、内外価格差の解消のために国内産業の生産性を高めるのは正しいが、日本の場合、貿易財産業の生産性を低めて内外価格差を解消したのではないか。