トランプ氏が返り咲きを果たした昨年11月大統領選直後、高級評論誌『Noema』のネーザン・ガーデルズ編集長は「イリベラル・デモクラシーがアメリカに到来(Illiberal Democracy Comes To America)」と題するエッセーを掲載、「ドナルド・トランプおよび議会における同志たちの選出は、わが国を南北戦争以来の深刻な分裂軌道に押し上げた」として、次のような点を指摘している:
「トランプが前回大統領就任後、唱導してきた『Make America Great Again=MAGA』運動に象徴されるイリベラル・デモクラシーはそれ自体、われわれが過去に経験してきたファシズムと違うかもしれない。しかし、極めてそれに近い存在であり、恐れるべき対象である。歴史家で『ファシズム解剖学』の著者ロバート・パックストンは『MAGA』運動について、『それは非常に憂慮すべき形で下から湧き上がって来たバブルのようなものであり、ファシズムの源流ともいえる。熱狂的トランプ支持者たちは、政府機能マヒ、社会的退廃に起因した地域社会の凋落、被害者意識にとりつかれ、過激な運動を支持してきた』と論じている」
「しかし今回、トランプ氏は全米有権者総数の51%の支持を得て、当選を果たした。この点では、議会選挙で37%の支持にとどまったナチズムの元凶ヒトラーとも異なる。今や、熱にうだされたトランプ派のポピュリストたちが政権の中枢に入り、あらゆる規範、そしてわが共和国のサバイバルを保証してきた『チェック・アンド・バランス』政府機能までも放り出しかねない危険をはらんでいる。この結果、政府機能やルールを重視する伝統的良識派との間の深刻な“二極化”を惹起させることになる」
「とくに自由民主主義制度が新たに直面しているのが、ウイルスのように瞬時に拡散するソーシャル・メディアの脅威にほかならない。そして、SNSの“寡頭体制”の権化ともいうべきイーロン・マスクがトランプ革命と密接に結びつき、自らが所有する『X』を通じ、『MAGA』運動を盛り立てるための私的プロパガンダに乗り出して来た。本来、情報の伝播は公衆のスペースを通じて行われるはずだが、もはや、公衆がまともに議論する場ではなくなった……そして今日、『MAGA』がもたらす最大の危険は、過半数の国民の支持を得たことを盾に、あらゆる制約をものともせず我が物顔に振舞い、大衆を押さえこんでしまうことにある」
MAGA運動の旗振り役
トランプ革命と『MAGA』運動—その最も熱心な“旗振り役”として急浮上してきたのが、スティーブン・ミラー氏だ。
トランプ氏は去る11月11日、ミラー氏を「大統領副首席補佐官(政策担当)deputy chief of staff for policy」に任命したと発表した。
これより先、ホワイトハウスのマネジメント全体を取り仕切る首席補佐官には、女性でフロリダ州共和党の戦略家として知られたスージー・ワイルズ氏が任命されている。
しかし、大統領に内外政策について直接助言、提案する重要ポストにミラー氏を任命したことについて、米マスコミはそれ以上に大きく報道している。
オピニオン誌「New Republic」は「トランプ、第二次政権にスティーブン・ミラーを呼び戻す」「とてつもない権限がミラーに」などの見出しで「緊急ニュース」として伝えた。 そして「彼は、第一次トランプ政権下で大統領のスピーチライター、政策顧問を務め、トランプ氏の信頼が最も厚く、『アメリカ第一主義』の極右思想家としても知られる。とくに、不法外国人滞在者の強制国外退去、退去前の収容所設置などの過激な移民政策では悪名をとどろかせてきた」とも報じている。