ウクライナ戦争は開始からほぼ3年の歳月を経て、ようやく停戦ないし終戦に向けた交渉が現実の課題として言及されるようになった。ここでは、あり得るべき交渉の主要論点を取り上げ、交渉成否の鍵がどこにあるかについて考えてみたい。
1.交渉において達成すべき戦略目標
プーチンが真に望んでいるのはウクライナの2割程度を占める領土の獲得ではない。プーチンが真に望むのは、「大国ロシアに相応しい地位」が確保されるような国際秩序を構築し、またルールを改編することである。
その一部をなすのが旧ソ連圏に対するロシア支配の再構築であり、欧米やNATOに対する優位の確立である。ウクライナへの侵攻はこのような戦略観の具体的な発動の一つに過ぎない。
ウクライナ戦争が何らかの形で終結した場合、ロシアが直ちにウクライナを超えて侵略を続けることは考えにくい。ロシア軍、特に地上軍は相当に疲弊しており、今の戦争経済は持続性がなく、兵員の充足ならびに武器生産ともに新たな戦線を開くには不十分だ。
ただそれでも、プーチンの決意は恐らく変わらないだろう。ウクライナの戦争が、ロシアによる新たな侵略を防ぐことのできる仕組みを構築することなく終わる場合には、一時的な平安はあっても、ロシアは態勢を立て直した上で、必ず再び侵略を開始するだろう。
さらに西側諸国に隙が生じる場合には、ウクライナを超えて支配権を拡充しようとするだろう。この戦争を真に終わらせるには、ロシアによる新たな侵略を実効的に抑止することのできる仕組みを構築することが不可欠だ。
2.交渉開始のための圧力
具体的な交渉を考える場合、最初にぶつかる問題は、現時点でプーチンには停戦・終戦を目的とした交渉にほとんど関心がないとみられることである。ドンバスの戦場では総じて露側が攻勢に出ており、プーチンはなお占領地を広げることが可能と考えている。
一方、ロシア領であるクルスク州の一部がなおウクライナに占領されたままであり、プーチンとしては同州が取引の対象になることを避けるため、少なくとも同州を奪還したあとでなければ交渉に入らないと考えている可能性が高い。
さらに、プーチンがこれまで主張してきた、露側占領の4州からのウクライナ軍の撤退、ウクライナのNATO非加盟や非軍事化等の諸条件は「交渉開始の条件」としているほか、ゼレンスキーは既に大統領ではなく交渉相手と認めない等と主張するなど、プーチンは交渉の開始自体にいくつものハードルを設けている。
交渉の開始に対する以上の障害を突破するには、ウクライナへの軍事的支援とロシアに対する制裁の強化により、戦略環境における優位性が失われているとプーチンに思わせることが必要である。交渉を成功に導く作業の前に、交渉を開始するための圧力が必要である。