2025年3月26日(水)

お花畑の農業論にモノ申す

2025年3月21日

 それでは日本食レストランではどうなっているのか?

 メルボルン市内の日本食レストランに入ると、山盛りのご飯が出てきた。店員に「どこのお米ですか?」と聞いたところ、「オーストラリア産のお米」とのこと。日本で食べるお米より少しパサパサする感じはあったが十分においしかった。

日本レストランのお米

 滞在中に何軒か庶民的な日本食レストランに入ったが、日本産米を食べる機会はなかった。やはり、ここにも〝価格の壁〟があるのだろうか。

割安なパスタを食べる日本人

 最低賃金が日本の2倍と言われているオーストラリア。メルボルン市内には若い日本人が目立った。高い給与を得ながら、英語などを身に付けたいと考えるワーキングホリデーの若い人たちのようだ。

 ただし、ラーメンが約2000円、ハンバーガーセットも2000円ほどと外食費も2倍ぐらいする。物価もかなり高めだ。

 先ほどの日本人女性を含めて、現地に住む複数の日本人から話を聞いたところ、「若い人は生活費を抑えるため、割安なパスタを購入して自宅で食べることが多い」という。美味しいと分かっていても日本産米にはなかなか手が出ない現状があるようだ。

 広く流通するオーストラリア産やベトナム産の短粒種はキロ600円前後。これに対し、オーストラリアで売られている日本産米(短粒種)は、キロ1000円程度である。そう大きくない価格差のようにも見えるが、それが現地の日本人にとっても日本産米を高嶺の花としているのが現実だ。

相当規模のコスト削減が必要

 筆者は10年以上前から、バンコクの日本人やタイ人バイヤーと話をしてきた。その際、「日本産米の購入者は基本的に日本人で、店頭価格キロ1000円以上では販売数は限られる」と指摘されている。

 24年12月現在の日本国内でのコメの農家売り渡し価格は、「令和のコメ騒動」の影響もあって高騰し、玄米キロ400円以上になっている。今後下がる可能性はあるものの、輸送費、現地での小売価格などを考えると、精米後のものを600円程度で売るのは難しいことが分かる。

 まさに相当規模のコスト削減が必要となる。それには、大規模農家の効率的な農地集約や中小規模農家のグループ化によって、各農家がスマート農業などを導入して効率化を図られるような環境づくりも求められる。

 また、最新技術の導入も重要で、現在期待されている技術の一つに乾田直播・節水灌漑(マイコスDDSR)がある。この方法では、田植えをせずに直接、種を田に播き、水の使用を最小限に抑えることで、栽培コストを大幅に削減し、メタン発生が抑えられるという環境負荷軽減の効果が期待される。このため「超低コスト・低メタン輸出米」にもなりうる。まだ研究段階であるが、実現できれば、増産も可能となり、稲作農家には非常に明るい未来も見えてくる。

 ただ、すべてにおいて農家個人や農業界の意識改革をしなければならず、「絵に描いた餅」にならないように、政府は将来像を丁寧に説明することが求められる。日本食レストランなど業務用も含め、誰にいくらで売るのか、そのためにはどのような栽培技術が必要なのかを具体的に示す必要があるだろう。


新着記事

»もっと見る