NTTもグループ総出で
IOWNなど新技術を推進
日本企業の復権といえば、NTTグループの存在感が増したことも見逃せない。かつてはNTTドコモがグループを代表して出展しているだけだったが、今回はドコモのブースにNTTグループの宇宙ビジネス戦略技術も展示し、ブースの外壁にはドコモのロゴに加え、「NTT」を表すダイナミックループのロゴも掲げた。NTTグループの海外事業展開を一手に担うことになったNTTデータは単独でブースを別途開設。NTTが推す次世代光通信技術の推進組織「IOWNグローバルフォーラム」も新たに展示ブースを設け、カンファレンス会場では4時間にもわたるIOWNの特別講演セッションを開催した。
今回のMWCで新たな技術トレンドとして感じたのは、生成AIの登場に伴うモバイル市場へのAI技術の浸透だ。欧州のIFAや米国のCESでもAIの活用が大きな話題となったが、MWCではAIを新たなソリューションとしてとらえるだけでなく、情報通信インフラの運用やマネジメントに活用しようとする動きが特徴的だったといえる。
IOWNもこれまではNTTによる同社の生き残り戦略のような印象が否めなかったが、生成AIの登場に伴う電力消費の急拡大を受け、省電力化のためにIOWNを本気で活用しようという世界のハイテク業界のコンセンサスのようなものを感じた。IOWNグローバルフォーラムの講演セッションには欧米の通信会社やソフトウエア会社だけでなく、マイクロソフトやグーグルといった米国のハイパースケーラーも今回は登壇し、フォーラムの発展拡大に大きな前進があったといえる。
楽天の仮想化技術の
海外展開が注目浴びる
NTTのIOWNに加え、日本企業の存在感を大きく示したのが楽天グループだ。同社には通信会社の楽天モバイルとは別に通信機器の仮想化技術を海外に展開する楽天シンフォニーがあり、MWCでは後者を中心にブースを構えた。経営トップの三木谷浩史氏がブースで講演し、世界の通信インフラ市場に新風を巻き起す戦略を英語で語りかけ、来場者の注目を浴びた。世界の情報通信市場ではこのところ「日本発」といわれる技術が少なかっただけに、IOWNと楽天の仮想化技術は久しぶりに日本の技術力を世界にアピールできる2つの大きなチャレンジだといえる。
しかしIOWNにしても楽天の仮想化技術にしても、その実装をいかにやりとげるかが課題だ。米国のハイパースケーラーがIOWNに関心を持ち始めたことは非常に好ましいが、彼らが本当にIOWNを採用するかどうかはまだ定かではない。楽天の仮想化技術にしてもドイツの新興通信会社、1&1(アインス・ウント・アインス)が採用したものの、海外の既存の大手通信会社が導入したわけではないからだ。
日本発の海外技術展開へ
国内情報通信産業の結束を
現地で日本人記者団の取材に応じた楽天の三木谷氏は「仮想化技術で世界のモバイル市場にパラダイムシフトを促す」と強気の姿勢を見せるが、楽天の仮想化技術を採用するかどうかを判断するのは海外の通信会社などユーザー企業だ。久しぶりの日本発の技術であるIOWNや楽天の仮想化技術は筆者も推したいと思うが、それが世界で受け入れられるようにするには個々の企業の海外戦略だけでは難しい。日本の情報通信産業全体の結束や後押しが必要であり、政府も強く後押ししていくことが重要だ。バルセロナで見た日本復活の兆しを「単なる兆し」に終えるのではなく、ぜひとも「大きなうねり」にしてほしいと思う。