2025年5月13日(火)

インドから見た世界のリアル

2025年5月7日

インド、4つの軍事オプション

 このような事態にインドはどう対応してきたのだろうか。14年にモディ政権が成立する前は、インドは基本的に、国内での対応に終始してきた。

 印パ間の緊張そのものは、89年以後も、90年、99年、01~02年、08年に高まっており、越境砲撃には越境砲撃、撃墜されれば撃墜して、対応しているが、これらはすべて、インドが自国領だと主張している範囲内の地域に限定して、行ってきたのである。

 諸外国と比べても、非常に抑えられた対応であった。ただ、パキスタン国内を攻撃する軍事オプションの研究そのものは続いてきた。そのため、現在、インドには、大きく4つの軍事オプションがある。

 1つ目は、特殊部隊による襲撃である。特殊部隊によって、パキスタン側に潜入し、テロリストの訓練キャンプを襲撃するもので、民間人を巻き込まずにテロリストだけを殺害することができる点が優れている。ただ、欠点もあり、特殊部隊が見つからずに潜入して戻ってくることを考えると、あまり奥地へは潜入できない。

 2つ目は、空爆である。空爆は、戦闘機によって行うもので、長射程届くミサイルや精密誘導の爆弾によって、テロリストの訓練キャンプを爆撃するものである。特殊部隊よりも奥地を攻撃できる点が優れているが、ミサイルや爆弾が外れると、関係ない場所を誤爆してしまう可能性がある。また、遠くから攻撃するために、テロリストを排除できたのかどうか、確認がより難しいことが欠点である。

 3つ目は、いわゆる「コールド・スタート・ドクトリン」と呼ばれる、限定戦争による方法である。国境付近に配置した戦車部隊が、パキスタンの国境付近のいくつかの重要拠点を限定的に攻撃するものだ。大規模な地上部隊や空軍を投入するから、より確実な打撃をパキスタンに与えることができる。

 ただ、あまり大規模にやりすぎると、パキスタンが核兵器を使う可能性があるから、攻撃は限定的でなければならない。しかも、パキスタンは、この方法に対抗するために、小型の核兵器開発を進めており、限定的な攻撃には限定的な核兵器使用を検討している。

 4つ目が海上封鎖である。パキスタンの港を海軍で封鎖し、貿易できなくする。この方法は、経済制裁としての効果があるが、パキスタン海軍が反撃したり、パキスタンが核兵器を使用する可能性があるし、中国海軍がパキスタン救援に来る時間的余裕を与えてしまう可能性がある。

 過去に似たような事例があり、中国がモルディブで親中政権が窮地に陥った際、14隻もの海軍艦艇をインド洋に派遣してきたことがある。この時は、140隻近く保有するインド海軍が、できうる限り多くの艦艇を出撃させ、両海軍は遭遇、結局、中国海軍は太平洋側に引き返した。

2019年の空爆でみせたモディ首相の実力

 これら4つの軍事オプションは、14年にモディ首相が就任するまでは、計画にすぎなかった。しかし、モディ政権成立後は、実施し始めた。まず、16年のテロに際しては、カシミール内ではあるものの、パキスタンが管理している地域に入り、特殊部隊でテロリストの訓練キャンプを襲撃した。

 そして、大成功となったのが19年の空爆である。16年に特殊部隊の襲撃を受けたパキスタンは、訓練キャンプをより奥地のパキスタン国内に移し、特殊部隊による襲撃を難しくしようとした。その上で、19年にテロ事件が起きたため、モディ政権は、空爆でパキスタン国内の訓練キャンプを空爆、これに応じたのである。

 この空爆は鮮やかであった。なぜなら、空爆そのものが成功しただけではない。その直後の選挙では、不利だとみられていた状況を覆して与党が圧勝したからだ。さらに外交では、当時はトランプ政権の1期目であったが、アメリカの強い支持を取り付けた。


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