2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年5月12日

放送番組のリモート制作で
エンタメ市場を底上げ

 放送局向け番組リモート制作のPoCについても「大きな前進があった」とユースケース・ワーキンググループのリーダーを務めるソニーの伊東克俊氏はいう。コンサートやスポーツなどのイベント番組制作ではこれまで現地に中継車を送り、そこで編集作業をしてから完成した動画コンテンツを放送局に送る必要があった。中継するマイクロ派や衛星回線の伝送容量に限界があるためだが、IOWNを活用すれば素材動画をそのまま放送局に送り、局側で編集作業ができるため、放送局の経営効率化につながるというわけだ。

IOWNグローバルフォーラムでスピーチするソニーの伊東氏(筆者撮影)

 番組リモート制作のPoCにはソニーのほか、TBSテレビなどが参画し、昨年11月に同局の昼の番組で成果を挙げたことから、いよいよ今年9月の「世界陸上」で本格的な運用を開始する。伊東氏は「これまでのPoCの段階から次のPoV(価値実証)の段階に移った」と強調する。放送番組のリモート制作が可能になれば、高額なコストをかけて現地に中継車を送る必要がなくなり、これまでコスト的に中継が難しかった小規模なイベントにも放送カメラを持ち込めるようになる。「そうなればエンターテインメント市場の底上げにつながる」と伊東氏は期待する。

経済的価値を示す
新たな「TEAM」方式を導入

 フォーラムで技術ワーキンググループのリーダーを務めるNTTの川島正久氏は「重要なのはIOWNの導入でどんなメリットが得られ、その投資を誰が負担するのかという事業展開への道筋を明確にすることだ」と指摘する。金融機関向けデータセンターの遠隔配置については今年1月にロンドンで開いたワークショップで英国の金融機関向けに説明したところ、大きな理解が得られたという。フォーラムでも新たに「TEAM(テクノ・エコノミック・アナリシス&マーケティング)」という考え方を今年4月に導入し、「どんな経済価値が得られるのか顧客目線で考えるようにした」と川島氏は説明する。

IOWNグローバルフォーラムでスピーチするNTTの川島氏(筆者撮影)

 PoCの候補は実は15件ほどあるが、ソニーの伊東氏は「いたずらに件数を増やすよりは今の3つのPoCについて実績を挙げ、その成果を内外に理解してもらうことが先決だ」と指摘する。そのうえで次のPoCとして期待できるのが「建設機械の遠隔操作によるリモートコンストラクション」だという。通信遅延があっては安全性が求められる建設機械の遠隔操作はできないが、超低遅延のIOWNならばそれが可能になるというわけだ。「わかりやすい事例をつくることが重要だ」と伊東氏は強調する。


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