カギ握る光電融合デバイスの
早期実用化
「APN 1.0」の導入で高速化と低遅延化にはメドをつけたが、100分の1の低消費電力化を実現するには、装置間だけでなく、半導体回路の中まで光通信で接続する必要がある。ストックホルムの総会ではそうした電気信号と光信号を相互に置き換える光電融合デバイスの早期実用化へ向け様々な技術展示もなされた。住友電気工業は国立研究開発法人の情報通信研究機構(NICT)との共同開発による装置と光ファイバーをつなぐAPNトランシーバーを展示し、キオクシアは光のインターフェースを備えた広帯域SSD(記憶装置)のプロトタイプなどを展示した。
実はIOWNグローバルフォーラムにも先を急がねばならない理由がある。米通信半導体大手のブロードコムが昨年春に光信号と電気信号の変換機能を半導体基板に組み込んだ先端デバイスを実用化したのに続き、GPU世界最大手の米NVIDIA(エヌビディア)が光電融合技術を搭載した最先端プロセッサーを年内にも投入すると明らかにしたからだ。生成AI(人工知能)の登場で急拡大する電力需要を抑えるためだが、フォーラムにとってはライバルが登場した格好だ。しかしボードメンバーを務める富士通の水野晋吾氏は「光技術への関心が高まることはIOWNにとっても市民権を得ることにつながる」と語る。
IOWNの推進を応援する
スウェーデン政府
ストックホルムの総会にはスウェーデン政府で国際開発協力と国際貿易を担うホーカン・イェヴレル国務長官が駆けつけ、IOWNの推進がスウェーデン経済にとって重要であることを指摘した。イェヴレル氏は「世界経済はウクライナ紛争や台湾有事の恐れなど地政学的リスクが高まっている」と述べ、そうした問題を回避するためにもグローバルな自由貿易とイノベーションの推進が重要だと訴えた。
イェヴレル氏によれば、ノーベル賞を生んだスウェーデンは人口あたりの特許出願数が世界第2位を誇り、人口あたりのユニコーンの数も米国のシリコンバレーに次いで2番目に多いという。新たに登場した生成AIなどの技術革新を支えていくにはコネクティビティ(接続性)の強化とコンピューターパワーの増強が不可欠だと訴えた。そのためにスウェーデン政府は8700万ユーロ(約150億円)を投じる一方、政府が持つ公文書へのアクセスを開放してLLM(大規模言語モデル)技術の育成を図っているという。日本政府との間でも昨年6月にデジタル分野での技術協力を促す戦略的パートナーシップを結んだことを明らかにした。
新たに「Beyond Digital」構想を提唱
今回の会議では代表を務める川添氏が冒頭の挨拶で提唱した「Beyond Digital(デジタルを超えて)」というフォーラムの新たなスローガンにも関心が集まった。例えば、情報システムを動かすにはデータを同期する際に時間軸を合わせるクロック(時計)機能が必要だが、現在はGPS(全地球測位システム)などの衛星技術に頼っている。より精度の高い光格子時計のクロック情報をIOWNでリアルタイムに共有できれば、電波障害などにも耐えられる安心・安全な環境が構築できるという。川添氏は「IOWNには超高速、超低遅延、超低消費電力という3つの特長があるが、さらにもうひとつ重要な要素が加わった」と強調する。
