最貧国を含む多くの途上国では、貧困からの脱失が優先し温暖化対策のために二酸化炭素排出量の削減を図ることは難しい。途上国の立場ははっきりしている。「温暖化を引き起こしたのは産業革命以降二酸化炭素を大量に排出した先進国だ。途上国の温室効果ガスの排出量は、今後増加するが、それは近代化のためには仕方がない」ということだ。
以前、気候変動に関する会議で、先進国と途上国が将来の排出責任について議論を行っている最中に、途上国代表の一人が「我々に貧乏のまま我慢しろというのか」と非公式に発言した。これが途上国の偽らざる気持ちだろう。温暖化か貧困対策かの選択肢では優先度は貧困のリスクということだ。
温暖化リスクか貧困リスクのどちらが優先かという問題は、先進国にもある。
失業と賃金低下で荒れる欧州
4月4日欧州委員会本部があるベルギー、ブリュッセルの街は大荒れになった。欧州21カ国から集まった欧州労働組合連合会の5万人(警察発表は2万5000人)のデモ隊と警官隊が衝突し、投石と放水車の応酬になったのだ。
組合は欧州委員会に対し政策の転換を訴えるために、デモを行っていた。ギリシャ危機を契機とした、行き過ぎたEUの緊縮財政が景気低迷、失業率の高止まりを引き起こしているというのが組合の分析であり、政策の転換が必要との主張だ。欧州は失われた10年の半ばまで来ているという見立てだ。
リーマンショック前の07年に7.2%だったEUの失業率は13年には10.8%に上昇している。スペインは26.4%、ギリシャは27.3%だ。25歳以下の若年層の失業率はさらに悲惨だ。07年の15.7%が13年には23.4%になっている。ギリシャは58.6%、スペインは55.7%だ。同じEU統計の数字だと、13年の日本の失業率は3.6%、米国6.5%、25歳以下の若年層だと日本6.8%、米国15.5%だ。
日本の失われた20年の大きな特徴の一つは実質賃金の低下だったが、失われた10年の途中と呼ばれるEUでも28カ国中18カ国で09年から実質賃金が低下している。ギリシャでは23%、ハンガリーでは12%、スペイン6%、英国、オランダでも4%の下落だ。
組合が問題として挙げているのは、不況と失業だけではない。最初のエピソードで取り上げた貧困の広がりと、格差の拡大もある。