低所得者の8割は高齢世帯
一方で、石破首相は、子どもや住民税非課税世帯には1人2万円を加算する方針を示している。
昨年11月に策定された総合経済対策でも、物価高対策として住民税非課税世帯への3万円給付が盛り込まれたように、コロナ禍以降、低所得世帯として住民税非課税世帯への現金給付が常態化してきたが、住民税非課税世帯の4分の3を65歳以上の高齢世帯が占めており、実際には、高齢世帯への給付となっている。
今回の給付も含め高齢世帯への給付は恒例行事と化している。これも高齢者優遇の政治の表れだろう。
政府からの自由
参院選を前に政治の場では、インフレに伴い生じている税収の上振れを調整するのに、給付金、減税のどちらが適切であるかが議論されている。この他にも、厳しい日本の財政状況に鑑み、消費税率引き上げなど、意図した増税が政治的に無理なのだから、インフレによるステルス増税により財政再建を進めるべきとの立場もあり、財務省の立ち位置に近いように感じる。
そもそもインフレ税に関しては、日本国憲法第84条「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と定められた租税法律主義に明確に抵触している。租税法律主義とは、税はいかなるものであれ、国民の私有財産権に対する侵害としての性質を持つもので、税は、国民の代表である議員から構成される国会が定めた法律によってのみ課されるべきとするものである。
インフレ税は、法律によって定められてはおらず、具体的な税源も明示されていないので、明らかに憲法違反であることを指摘しておきたい。インフレ税に依存するということは、政府の統治能力が貧弱で、したがって徴税システムが未整備であったり、あっても機能しなかったりする開発途上国型の税体系であり、日本のような先進国にはふさわしくない。財政再建のために増税が必要というのであれば、インフレ税のようなステルス増税ではなく、正々堂々と国会の場で主張し、国民の理解を得るべきだ。
その上で、給付金に依存することは、政府への依存を高めることだということを強く意識すべきだろう。つまり、インフレによるステルス増税から私たちの所得や財産を守るための物価調整減税が制度化されていれば、政府の裁量によってではなく自動的にインフレから私たちの生活を守ることが可能になるのに対して、給付金に頼るということは政府が主導権をもっていつ誰に幾ら給付をするかを決定できるので、政府にコントロールされるリスクが高まってしまうことになる。政府への依存が強まれば政府による支配を受けやすくなるのだ。
インフレが復活した日本を生きていくのに私たちが必要とするのは、政府による統制強化につながる一時しのぎの給付ではなく、政府から自立した生活を送るため、「取って配る」政策から「取らずに残す」政策への転換なのではなかろうか。
