こうした主張はその後もいささかも変わっておらず、2期目の大統領返り咲きのための選挙遊説中だった23年には、Fox News主催の市民集会で根拠のない数字まで挙げつつ次のように自らの信念をアピールした:
「環境運動家たちは、温暖化が大雨をもたらし、海洋の水位上昇に警鐘を鳴らしているが、諸君は騙されてはならない。実際は水位は今後300年間でわずかに8分の1インチ程度上昇するに過ぎない。我々が本当に心配しなければならないのは、気温上昇による地球温暖化ではなく、核戦争勃発による温暖化だ……」
この発言について、NOAAは「トランプ氏が挙げた8分の1インチの水位上昇は、近年すでに観測されている1年間分の平均データであり、300年間の累積ではない」とした上で、しかも米国沿岸においては「2020年から2050年の30年間だけで水位が平均10~12インチ上昇すると推測される」との見解を公表した。
しかし、トランプ氏はこうした政府当局の科学的データに基づいた主張に反発し続け、今年1月、大統領に返り咲いてからも、地球温暖化について一人異論を繰り返している。
そして就任直後に発足させた「政府効率化省」(DOGE)に対し、とくにNOAAについても組織改編・縮小を指示したが、自説に難癖をつけられた“意趣返し”との見方も出ているほどだ。
270項目にも及ぶ反環境措置
トランプ氏の「地球温暖化無視」の最たるものが、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」離脱宣言だった。大統領は去る1月20日就任式のその日に、「私は不公平で、一方的なパリ協定から離脱する」として内外報道陣を前に大統領令に署名した。
同協定については、トランプ氏は1期目の政権時に、「さまざまな制約によってわが国の製造業が苦境に立たされている」などとして、離脱を発表したが、後任のバイデン民主党大統領がこれを覆し、再復帰したばかりだった。
その後も、トランプ大統領は環境保護政策や気候変動対策などをつぎつぎに退ける措置を打ち出してきている。
米国最大の環境保護団体として知られる「自然資源防衛協議会」(NRDC、本部ニューヨーク)の追跡調査によると、1月20日政権発足後、7月17日までの間に発表された具体的な反環境措置は270項目にも及んでいる。このうち、最近3カ月だけでも以下のようなものがある:
・ホワイトハウスが気候、クリーン・エネルギー、環境保護関連の連邦政府プログラム予算について、2026会計年度から大幅カットする方針を関連省庁に通達(5月2日)
・トランプ大統領が、一酸化炭素および温室効果ガス排出の「社会的コスト」調査のための作業部会撤廃を指示(5月5日)
・連邦エネルギー省がバイデン前政権時代から各州に義務付けていた「温室効果ガス報告プログラム」を撤廃(5月16日)
・ホワイトハウス「環境の質会議」が統括してきた温室効果ガスおよび気候変動ガイドラインを解消(5月24日)
・内務省が、太平洋沿岸海域における深海鉱物採掘に関する許可・ライセンス取得のための事務簡素化・迅速化方針を発表(6月25日)
・共和党主導の連邦議会がクリーン・エネルギー事業に対する税控除廃止、全米国有地における化石燃料採掘事業に対する助成金、再生エネルギー公共事業の大規模縮小措置などを盛り込んだ予算法案を採択(7月4日)
