2025年12月6日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2025年7月28日

 元日中青年交流協会理事長の鈴木英司氏の事例は、この類型のリスクを如実に示している。鈴木氏は2016年に拘束され、6年間服役した。彼が拘束された理由は、中国外交部の高官との会食中に交わした「中朝関係の責任者が殺された」という些細な会話が盗聴器によって傍受されたためだという。

 中国の重要人物との交流を持つことには別のリスクもある。その人物が政治闘争や汚職容疑で失脚した場合、関係者も取り調べを受けるためだ。習近平総書記の看板政策である「反汚職運動」は現在も継続しており、多くの官僚や企業人が失脚しているため、どのような形で巻き込まれるかは予測できない。

 官僚や企業家が“姿を消す”のは中国では珍しい話ではない。しばらくの間、公開の場に姿を現す期間がないと、当局に拘束され取り調べを受けたのではないかとの噂が流れる。その後、刑事手続きに移るケースもあれば、何事もなかったように復帰するケースもあるが、その際にも取り調べがあったことは秘密とされる。

 これは18年制定の国家監察法で定められた「留置」と呼ばれる制度で、対象は中国共産党、公務員、国有企業関係者に限定されているため日本人が対象となることはない。逆に言うと外国人を対象に捜査が行われた場合には、有罪になることがほぼ確定しているとも言える。知人が“姿を消した”時は黄信号だと考えるべきなのだろう。

 中国通の人々にはこうしたリスクはかなり知られているようだ。ある人物からは「本帰国が危ない」と聞いた。長年駐在した後、日本に帰る時に拘束されることが多いというのだ。その人物は危険を感じたため、周囲には一時帰国であると説明して帰国するという安全策を採ったという。

日本インテリジェンスとの関係

 公安調査庁など日本政府のインテリジェンス機関は中国に駐在した日本人を対象に幅広くヒアリングを行っている。これがスパイとして認定されることも。

 報道によると、今回の日本人男性は判決で「情報機関の依頼を受けて、中国の政治や経済などに関する情報を提供し、報酬を得ていた」と認定されたもようだ。

 24年11月末には、中国共産党系主要紙である光明日報論説部副主任の董郁玉氏が、日本のスパイとして懲役7年の判決を言い渡された。董氏は日本の外交官との会食時に拘束されたが、判決では日本大使館および外務省が「スパイ組織」と認定されていたという。これは、日本の公的機関が中国当局によって「スパイ組織」と見なされ、その関係者が容易にスパイ罪の対象となる可能性を示唆している。

 公安調査庁や内閣情報調査室などのインテリジェンス機関が、中国駐在者などへのヒアリングを幅広く行っているのはよく知られている。ただし、その多くは意見聴取とみられる。報酬を支払ってなんらかの情報入手を依頼するというケースがどれほど存在するのかはまったくわからない。

 インテリジェンス機関の接触を受けるのは前述の中国通や中国を専門とする研究者などが中心と考えられるが、こうした人々の多くはスパイ罪に抵触しないよう警戒しており、金銭を受け取ることへの警戒感も強い。高い地位のある人物が報酬を受け取るのはリスクと釣り合わない。


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