2025年12月5日(金)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2025年7月30日

 今回の関税合意においても、日本政府はアメリカに対して総額5500億ドル(約80兆円)の投資を約束した。これには自動車産業の投資も含まれる。ということは、より多くの生産拠点が、日本からアメリカへ移転することが考えられる。

 これは官民の合意で進めており、何よりも関税合意の前提として受け入れる必然性があるものには違いない。けれども、このような投資は日本から見れば、産業の空洞化を生み、着実に国内総生産(GDP)の足を引っ張る。日本経済とはトヨタなど日本発の多国籍企業の連結決算の総合計という感覚は根強いが、実際は空洞化が進行すれば国内経済は弱体化する。

日本国内でやるべきこと

 今回の投資計画にしても、世界的に見られる中長期的な保護主義の高まりにしても、日本経済としては残念ながらマイナスの側面がある。これを補って、経済の低迷を打開するような国内経済を活性化するために、自動車産業にも努力が必要だ。具体的には、AV向けのソフトウェアにせよ、EV向けの新世代の電池技術にしても、高い付加価値を生み出す研究開発を国内で続けることが必要だ。

 この部分ですら、国外に流出させるようでは日本企業がもはや日本企業ではなくなる。いずれにしても、今回の関税合意で得た「当面の危機回避」というチャンスを使って、日本の自動車産業は新時代へ向けての競争力強化と、空洞化に打ち勝つ国内経済への貢献に注力することが期待される。

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