この全世代型社会保障への転換で、日本はこれまでは、貧困に陥った者や低所得者に限定して、必要最小限の給付を行ってきたのだが、現在のように全世代への給付を正当化しているのだ。
行き過ぎた分配重視は財政危機を惹起する
自民党はこれまで政権維持が危うくなるような危機に直面するたびに党内での擬似的政権交代、つまり、成長重視から分配重視に路線変更することで国民の支持をつなぎ止めてきた。
例えば、石油ショックを契機とした狂乱物価の発生、公害問題など高度成長の矛盾が表面化し、保革伯仲となった1973年には福祉元年として老人医療費の無償化、「5万円年金」、物価スライドの導入、児童手当の創設等の社会保障の給付面での改善、2008年に発生したリーマンショックに際しては、麻生太郎内閣の安心社会実現会議と定額給付金、新型コロナ禍に対しては「成長と分配の好循環」の実現を謳った岸田文雄内閣の新しい資本主義である。しかし、これまでの歴史からも明らかなように行き過ぎた分配重視は財政危機を惹起し、現役世代への過重な負担を課す。
その最たるものが、現在、政治も政府も強力に推進している全世代型社会保障である。全世代型社会保障では、高齢者への給付や負担は原則そのままにして、子育て世代を中心として給付を増やすことで、財政支出が拡大している。
社会保障給付の効率化や削減はそもそも全世代型社会保障の目的に反するので、給付増に対しては負担増を考えざるを得ない。消費増税が政治的に封印されているため、現実には、その財源はインフレ税である。
つまり、社会保障給付増を中心とした歳出増の財源確保のためには、与党も政府もインフレを容認するほかなく、こうした物価高容認が今回の自公政権の大敗に繋がった。自民党が党勢を盛り返したいのであれば、分配路線から成長路線への再転換が必須だろう。
