2025年12月6日(土)

Wedge REPORT

2025年8月7日

切土法面の崩壊

 斜面を切土してできた法面の崩壊は、林道に限らず、一般道路も含めたあらゆる林地開発で起こる宿命的な現象である。ただでさえも不安定な傾斜した地山の一部を切り取るのだから、さらに不安定になって当然である。

写真 11 切土法面の崩壊

 法面保護のため、ブロック積みやコンクリート擁壁の設置、モルタルやコンクリートの吹付工、果ては法枠工(のりわくこう、鉄筋コンクリートの格子で法面を押さえる工法)までいろいろな工種があるが、多額の費用がかかる。したがって、林道では切土面がむき出しのところも多い。

 一番良いのは、切土高を低く抑えることだ。土工の基本は、片切片盛であり、山側で切った土を谷側に盛る。これだと土が横断方向への移動で済むので経済的なのだが、地山の傾斜が急になると盛土ができなくなるので、全切になってしまい切土高が高くなり、崩土の危険が増す。

写真 12 片切片盛の路体

 切土を多くすると、崩土のリスクだけでなく、切り取った土砂の縦断方向への運搬が必要となり、工事費が余計にかかることとなる。したがって、片切片盛をいかに増やすかが、安全上も経済上も林道工事の要点となる。

写真 13 全切の路体

 そこで写真14である。これは森林作業道によく使われる根株積み工法で、支障木の根株を盛土法面に積み上げて盛土の強度を高めるものだ。

写真 14 作業道盛土法面の根株積み

 通常地山の掘削や盛土に当たっては、30センチメートルの深さまで表土を除去することになっている。表土は植物体やその腐食物などの有機物を含んでいて、盛土の材料に適さず、流用できないことになっている。

 しかし、根株はすぐに腐食するわけではない。図5のように林道予定線に残された支障木の根株を盛土法面の強化に使用することができる。また繊維質の多い表土は、これらの根株の隙間に充填することによって、盛土の吸い出し防止、法面の強化に役立つ。さらに広葉樹の根株であれば、萌芽することもあり、草木の種子を多く含んだ表土からは発芽する。すなわち生きた盛土材料、天然の緑化資材なのだ。

 筆者は、この工法を実見したとき、これこそ森林土木の極意ではないかと確信した。ふつうであれば捨てる材料を高性能の材料として有効利用できる、まさに逆転の発想である。針葉樹の根株は萌芽しないので、いずれは腐って強度を失うが、腐るまでの期間に新たに生育してきた草木が代わって強度を発揮する。


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