病院統合における調整を担う伊丹市地域医療体制整備推進班の担当者は「国の補助金で建設費の一部を補填できるが、平米単価が実情に見合っていない」と話す。診療報酬は医療機関が提供した医療サービスに対して国や自治体から支払われる。
そのため、建設費は基本的に医療機関の自己負担だ。現行の診療報酬制度は、日常の保険診療のみでは簡単に黒字にはならない。建設費を賄えず老朽化した施設を抱える医療機関は全国に存在する。
同班担当者は「近年、多くの業界でベースアップが行われたため、医療機関にとっても人件費の負担が重くのしかかっている」と話す。昨年の診療報酬改定では、給与引き上げが実現できた医療機関に点数を加算する「ベースアップ評価料」が創設されたが、十分に賃上げできている医療機関は多くない。
病院統合に向けて現在、伊丹市と市立伊丹病院で組織する推進班、近中病院、近中病院の設置者(経営責任主体)である公立学校共済組合で、工事費用や人員の確保、地域医療提供体制や交通アクセス向上の検討などを行っている。「経営主体の異なる複数の組織の統合は、文化や業務の進め方の違いも含めてすり合わせに難しさを感じる」としながらも、現場では住民に不利益が生じないよう限られた時間、人数の中で多岐にわたる調整を急いでいる。
人口減少地域の最先端
佐渡島は日本の未来の姿
さらに地方へ目を向けると、病院統合すらできず、診療科を閉鎖せざるを得ない状況もある。かつて国内最大の金銀採掘量を誇った「佐渡金山」がある新潟県佐渡島。そのほぼ中央に位置し、島の中核病院として、島の人々の健康を守り続けてきた佐渡総合病院は、がん患者などを対象とする島内唯一の放射線治療科を来年3月に閉鎖することを決めた。
今年7月末で新患受け入れはストップしたが、現在治療中の患者に関しては予定している治療は完了させる。今後、放射線治療が必要になった患者は1時間以上かけて船で本土に渡らなければならない。
放射線治療科に通院していた患者からは、「次に再発したら佐渡で治療を受けられず残念」「本土には頼る家族がおらず金銭的にも余裕がない」などの声があがっている。
同科診療放射線技師長である稲葉光昭氏は、「本土に行かなくても、佐渡でできるから治療を選択した患者もいる」という。同じく技師の本間圭一郎氏は、「患者から放射線治療の同意を得る際、家族などにも立ち会いをお願いするが、近くに家族がいない高齢の患者も多く、知り合いに頼む人も少なくない。互いに助け合いながら生活をしている方は本土に行くハードルが高い」と、高齢化が進む地域ならではの実情を話す。なお、検査などを行う放射線科は存続するため、職員の雇用は引き続き確保される。
院長の佐藤賢治氏は、佐渡島に来て30年、外科医として島民たちに向き合い続けてきた。そんな佐藤氏が「放射線治療科を閉鎖せざるを得ない」と判断したのは、人口減少により今後、運営に必要な患者数を確保できる見込みがないからだ。
放射線治療を維持するためには、年間2000万円を超える費用が掛かる。耐用年数がわずか5年の機器を更新するために、数億円以上の投資は難しい。
