2025年12月5日(金)

日本の医療は誰のものか

2025年9月5日

 国内に34万人の患者を抱える血液透析業界に今、異変が起きている。右肩上がりで伸びてきた患者数が頭打ちとなり、2022年、ついに微減に転じた。減少トレンドは今後も続くと予想される。患者の層も変わった。かつて過半を占めた就労世代が、今や圧倒的に高齢者となり、これまで手つかずできた終末期への対応が求められている。

透析医療のあり方に一石を投じるためにも、まずは人工透析の現状を国民の中で共有する必要がある(ALEXEY_DS/GETTYIMAGES)

 人工透析(血液透析)が、公的医療保険制度の財政圧迫要因として批判されて久しい。年間医療費は約1兆6000億円と、全医療費の4%。透析患者一人当たりでは年500万円台で、「透析患者10人でビルが建つ」などと揶揄された時代もあった。

 慢性の経過で失われた腎機能は再生しない。血液透析は、死すべき定めにある患者の命を永らえることのできる腎不全医療の切り札だ。そういう事情もあって、患者の月額負担は公的助成制度により最大2万円に抑えられている。

 血液透析業界は、成長が見込める医療ビジネスとしても関心を集めてきた。ある医療コンサルの資料には〈透析と老人施設の組み合わせ=永遠に回る(利益を生む)装置〉などという露骨な営業文句が並ぶ。

 透析器は部品点数も多く、産業として裾野が広い。医療機器メーカー、製薬会社、融資を行う銀行までが大きな利益を上げてきた。過剰投資の結果、国内の血液透析施設は今、飽和状態だ。

 すべての透析患者が血液透析を選んだとしても、収容可能人数の7割しか埋まらない。患者の送迎サービスが経営を圧迫する施設も多く、淘汰の波が近づく。


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