厚生労働省が3年越しで取り組んできた、従業員のストレスチェックを企業に義務化する法案がようやく国会で成立する見通しとなった。「労働安全衛生法の一部を改正する法律案」は、3月11日に閣議決定し、4月9日の参議院本会議で全会一致により可決。現在、衆議院で審議中だ。法案そのものへの反対意見は見当たらず、集団的自衛権の容認問題などで国会審議がストップする事態にさえならなければ、会期末(6月22日)までには可決成立する。「企業の費用負担増」「簡易なチェック表で意味がない」「産業医・保健師が混乱する」などと言われるストレスチェック義務化法案だが、これで職場うつ、休職者を減らすことができるのだろうか。法案の内容と企業の取り組み、想定される波紋などを探ってみる。
高止まる自殺者、増加する労災申請
問題点の整理も含め、まずは労働安全衛生法の改正に至る経緯から触れていく。厚生労働省が職場のメンタルヘルス対策に動き出したきっかけは、自殺者数の高止まりがある。1998年から2010年まで年間3万人を超え、11年、12年はようやく3万人を下回ったものの、12年は27,858人まで自殺者が減少した。とはいえ少なくない数であり手放しで喜べる状況とはいえない。警察庁の自殺統計をみると、12年の自殺者のうち遺書などで原因が特定できたのは20,615人だった。最も多いのは健康問題の13,629人で次に経済・生活問題、家庭問題と続き4番目に勤務問題がくる。2,472人だった。
勤務問題を理由に自殺する人が1年間で約2,500人だった12年だが、この年の労働災害による死亡者数は1,093人。自殺者数が上回る。さらに精神障害などの労災補償は、請求件数、認定件数ともに毎年ほぼ右肩上がりで12年は請求が1,257件、認定が475件、認定のうち自殺は93件と過去最高となっている。
12年の数値を紹介したが、この傾向は10数年前から起きている。職場を原因としてうつ病を発症し、自殺にまで追い込まれる人たちの増加傾向に対し、国として対策をしないわけにはいかない。もちろん、労働者の健康保持増進のための指針などは2000年ごろから出され、職場のストレスについての調査研究が行われていたが、より積極的に進めるようになったのは、自殺者と労災申請の増加にある。
現状をみると、職場でメンタルヘルス対策を実施している事業場は、労働者健康状況調査によると12年で47.2%に過ぎない。これを第12次労働災害防止計画では17年までに80%にまで高める目標を設定している。メンタルヘルス対策に取り組むことで職場での不調者を把握し、対処してもらおうという考え方だ。