2025年12月5日(金)

トランプ2.0

2025年9月25日

中東ガザ紛争

 「米国は、紛争を終わらせるために、可能なら米軍を投入してでもパレチナ自治区ガザ地区全域を占領する用意がある」――。トランプ大統領が去る2月4日、ホワイトハウスを訪れたイスラエルのネタニヤフ首相との会談後の共同記者会見で漏らした突然の見解表明は、たちまち緊急報として世界中を駆け巡った。

 さらに「米軍占領時には、居住するパレスチナ人民は立ち退かざるを得なくなる」「われわれの手で地域内の危険な不発弾や兵器類一切を撤去し、我々が全地域を所有し、そして開発して何千人もの雇用を生み出す。そうすれば中東全域に大きな安定をもたらす」などとまくしたてた。

 現地住民やパレスチナ人民の意思を無視した唐突なこの提案に、当事者はもちろん、中東諸国からはただちに非難の声が一斉に上がった。

 パレスチナ自治区のマフムード・アッバス議長は声明で「ガザはパレスチナ国家の中核であり、居住する210万人のわが同胞の立ち退きは断じて許されない。トランプ構想はとんでもない人権無視、国際法無視の暴挙だ」と激しく攻撃した。

 同じくフサム・ゾムロット国連代表も英BBC放送に出演し「ガザ地区から強制的に住民を退去させることは“民族浄化”を意味しており、非道徳、違法、危険きわまりない考えだ」と一蹴した。

 サウジアラビア外務省は「わが国は明確にトランプ提案を拒否する。同時に、パレスチナ独立国家樹立のための努力を続ける」との見解を発表。エジプト外務省も「アッバス議長の立場に同意する。ガザ地区住民を立ち退かせることなく被災地早期復興を支援すべきである」と述べた。

 英仏両国政府もトランプ構想に相次いで反対を表明した。

 このため、トランプ氏は当初打ち出した地域住民強制退去による米軍占領案を引っ込め、去る9月には、代替案として、①住民は自由意志で他国へ移住してもらい、移住希望者には近隣諸国内に無料で生活できるアパートを用意する②ガザ地区全体を地中海の保養地として知られるリビエラのような観光地として再開発する③イスラム過激組織ハマスを同地区から一掃する――などの構想を打ち出した。

 しかし、同地域のパレスチナ住民の多くが立ち退きに反対し続けていることなどから、その後、計画自体が宙に浮いたままとなっている。

グリーンランド買収

 「われわれは、国家安全保障、そして国際安全保障のためにグリーンランドを必要としている。あの島を手に入れるためにあらゆる政府関係者を動員してすでに動き出しつつある」――。トランプ大統領は去る3月、連邦議会演説でかねてからの自説を展開した。

トランプ大統領が興味を示すデンマーク自治領のグリーンランド(murat4art/gettyimages)

 この発言を受けて、数日後にはマイケル・ウォルツ大統領補佐官(当時)が夫人同伴で現地視察に出かけたほか、帰国後ただちに国家安全保障会議(NSC)の関係スタッフを集め、グリーンランド買収に向けた今後の具体的な方策について数回にわたり協議している。

 トランプ氏がデンマーク自治領のグリーンランドへの関心を示したのは、今年が初めてではない。大統領1期目の19年に「グリーンランドをわが国が確保することは、国際安全保障上からも絶対的に必要だ」と述べた。ただ、その際はたんなる“観測気球”発言とみられ、大きな話題にはならなかった。

 しかし、今回は去る1月正式就任直前に、記者会見で「5万7000人の島民は米国の統治下に入りたがっており、われわれは島を手に入れる」「もし、デンマークが応じなければ高関税を課すし、米軍投入も辞さない」などと繰り返し語ったことから、国際的関心がにわかに高まりつつあった。そしてその後の連邦議会における公式発言にまで発展した。

 去る3月末には、ウォルツ補佐官夫妻に続いてバンス副大統領夫妻まで現地を訪問したことは、今回大統領が同島買収にいよいよ本腰を入れ始めた証と受け止められた。

 新たな米側の動きに対し、グリーンランド自治政府、デンマーク政府は終始、同構想について「島は売り物ではない」「主権侵害行為だ」などと反対を表明してきた。また、買収に向けたトランプ政権の動きと軌を一にして実施されたたグリーンランドの議会選挙では、トランプ発言に反発する住民の声を反映した民主党が21年の前回議会選から20ポイント伸びて第1党に躍り出た。


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