2025年12月5日(金)

トランプ2.0

2025年9月25日

パナマ運河統治案

 「パナマはわが国との約束を破った。今や中国がパナマ運河を運営している。われわれは運営権をパナマに賦与したのであって、中国に明け渡したわけではない。従ってわが国が取り戻す」――。トランプ大統領は去る1月20日の就任式演説の中でこう宣言した。

トランプ大統領はパナマ運河の統治も掲げている(dani3315/gettyimages)

 パナマ運河については元々、米国によって建設され、完成後、運河とその両岸の地帯は米国が所有していたが、パナマ国民の不満の高まりを受け、99年にパナマ共和国側に返還された。

 他方、今世紀に入り、香港の事業グループが運河周辺の港湾2港の管理権を保有するなど、中国側としても、太平洋と大西洋を結ぶ要衝としてのパナマ運河に強い関心を示し始めた。運河の利用度も米国に次ぎ世界第2位となり、今日に至っている。

 ただ、パナマのムリノ大統領は、トランプ氏の同運河奪還発言に反発する一方、中国の同地域への影響力拡大をも警戒、去る2月6日には、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」からの離脱意向を表明するなど、米国に歩み寄りの姿勢を見せている。

 今後、同運河をめぐっては米中間の綱引きがますます激しくなることが予想されるが、世界各国による利用度の高まりによってパナマ政府にとっての運河収入は年間7600億ドル(2024年現在)と国家財政上の重要な収入源となっているだけに、運営権の米国引き渡しに応じる可能性は極めて少ないとみられている。また、仮に米国政府が軍事力投入によって運河奪回に生み切った場合、米中間の利害が衝突し、国際危機に発展することも懸念される。

 結局、パナマ運河をめぐっても、トランプ大統領の掛け声倒れに終わる公算が大だ。 

国際的社会の敬意はもはやない

 いずれにしても、トランプ氏が、米国史上まれにみる話題作りに秀でた大統領であることはたしかだ。しかし、上記に挙げた例が示す通り、実現性に乏しいケースが多いだけに、米国大統領としての国際的信用低下を招いていることも否定できない。

 さらに、実態とかけ離れた誇大発言もそれに輪をかけている。米CNNテレビは、トランプ氏が1期目の大統領在任中の去る18年9月、国連総会の場で行った演説の中で「建国以来歴代大統領の中で私ほど就任半ばにして多くの実績を残した指導者はかつてない」と自慢した際に、傍聴していた各国外交団の中から失笑を買ったエピソードに触れ、今や国際社会は米国大統領に敬意を払わなくなったと論評している。

 米評論誌「The Atlantic」も最近号で、「世界はもはやトランプを真に受けなくなった」と題する論評を掲載、①ロシアのプーチン大統領はトランプ大統領の度重なるウクライナ停戦呼びかけにも軽くあしらい続けている②世界最大の人口国インドのモディ首相が今月、トランプ氏と仲たがいの後、北京を訪問し、当てつけのように習近平中国国家主席と親しく会談した――などの例を挙げた上「これら世界のリーダーたちは、米国大統領は尊敬に値しない」とみなしている、と断じている。

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