2025年12月5日(金)

トランプ2.0

2025年9月25日

 民主党躍進の背景には、明らかにトランプ大統領の同島買収発言に対する猛烈な反感があったとみられている。

 デンマークのラース・ラスムセン外相も3月30日、トランプ氏がさらに「買収のために米軍投入も辞さない」とトーンをエスカレートさせたことに対し、SNSビデオメッセージで反論、以下のように語った:

 「わが国や島民に対していろいろ批判や注文があることは承知しているが、これだけははっきりさせておきたい。すなわち、軍投入といった激しい言葉は慎むべきだ。私はデンマークと米国が今でも緊密な同盟国であることを信じているが、米大統領の言辞はその緊密な同盟国に対して使うべきではない」

 同日、首都コペンハーゲンでは、「アメリカよ、手を引け!」などと書いたプラカードを掲げた千人近くの反米抗議集会が米大使館前で行われた。グリーンランドでも、野党各党が民主党と連立して新自治政府を結成することで合意し、米国による買収計画を断固阻止していくことを確認した。

 その後、ニューヨーク・タイムズ紙報道によると、トランプ政権下でグリーンランド問題に関して数度にわたり国家安全保障会議が開かれ、具体策について検討されたが、買収のための強硬策は後退し、島民をターゲットにしたPR作戦を展開していく案が浮上してきた。

 同作戦では、①デンマーク政府は島民の生活向上のための努力を怠っている②米国の統治下に入ればロシアや中国など外部勢力の干渉から解放される③島民一人当たり毎年1万ドルの生活補助が約束される――といったアピールが盛り込まれる予定という。

 しかし、今のところ、島民の大半は米国領になることに対して冷淡な反応しか示しておらず、トランプ氏の米国統治案の実現の見通しは全く立っていない。

カナダ併合計画

 「私は大統領として、カナダがわが国の一つの州とならない限り、同国支援のために何千億ドルも支出したいとは思わない。もし、米国の州になれば、米政府に支払わなければならない関税は一段と引き下げられ、半額となり、国防費の負担の必要もなくなる。より確実な安全保障が確保され、それはカナダにとって実に素晴らしいことだ」――。トランプ氏は大統領就任直後の去る1月25日、移動中の大統領専用機エアフォース・ワンの機中での記者懇談で、こう抱負を述べた。

 この発言は、大統領が就任とともに、同盟国であるカナダにも各国同様の25%関税措置を打ち出したことと関連して個人的見解として開陳したもの。

 これに対し、カナダのトルドー首相はただちに「わが国が米国の51番目の州になることはあり得ない」と反論するとともに、「わが国に高関税を課すことは、すなわち米国消費者がより高い物価を負担させられることになる」と警告していた。

 そして3月には、退任したトルドー首相に代わり新たに就任したカーニー首相も、カナダ併合のトランプ発言に言及、「私たちがアメリカの一部になることは、どのような形だろうと、決してない」と決然と語った。そして同首相は、自動車、鉄鋼、アルミ製品を除く米国製品に対し、25%の報復関税を課すと発表した。

 すると、トランプ大統領はこうしたカナダ側の“反抗姿勢”にいらだち、去る7月には、対カナダ関税率を25%から35%に引き上げると発表した。このため一時は、国境を接する同盟国同士の関係は緊張状態が続いた。

 ようやく翌8月、米加首脳の電話会談を踏まえ、カナダ側が「対米25%関税取り上げ」を発表したことで、両国関係のさらなる悪化に歯止めがかかる見通しとなり、近く開催される米国・カナダ・メキシコ3国間貿易交渉で関税問題の最終的決着を目指すこととなった。

 しかし、カナダの米国併合問題は両国間にしこりを残しただけで、事実上、トランプ氏にとっては“絵に描いた餅”と化している。


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