2025年12月5日(金)

商いのレッスン

2025年11月13日

理念×現場×データ──人が主役の経営

 ヤオコーの強さは、理念経営と現場創造力の融合にある。本部が指示を出すのではなく、店舗が主体的に判断し、顧客と向き合う。

 ある店では地元食材を使った惣菜を強化し、別の店ではワインやチーズを拡充する。地域に暮らす人々の生活を読み解き、「ここにしかない日常」を提案している。

 しかし、それは感覚だけに頼る経営ではない。POSデータやAI分析を駆使し、売上・客層・購買頻度を科学的に把握。現場の勘とデータを組み合わせ、理念・データ・現場の三位一体経営を実現している。これはヤオコーが長年掲げてきた“人が主役のデジタル経営”である。

 さらに25年10月、ヤオコーは「ブルーゾーンホールディングス」へと社名を変更し、東証プライム上場の純粋持株会社体制へ移行した。“ブルーゾーン”とは、世界で長寿者が多く暮らす地域の呼称。その名には「人が心身ともに健康で、幸せに生きる地域社会を育む」という願いが込められている。

 つまり、この社名変更は単なる再編ではなく、理念の深化を宣言したものである。食を通じて地域の健康と幸福を支え、社員・顧客・地域がともに“長寿の循環”をつくる。利益の追求を超え、「人と地域の幸福づくり」そのものを事業の目的に据えている。

 この理念の確かさが、安定と挑戦を両立させる原動力になっている。理念があるから、変化を恐れない。理念があるから、現場が迷わない。ヤオコーの強さは、理念が「行動の軸」として機能していることにある。

お客さまの「まあまあ」は「まだまだ」

 ヤオコーの精神的支柱は、創業の母・川野トモの言葉にある。戦中戦後の混乱期、家業の八百屋を守り抜いたトモは、「お客さまの『まあまあ』は『まだまだ』」と諭した。

 「まあまあ良かった」と言われて安心してはいけない。その言葉の裏には、「もっと良くなれるはず」という期待がある。この一言が、ヤオコーの36期連続増収増益を支える商いの哲学となっている。


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