また、「物価上昇」や「物流コストの増加」といった理由をつけて価格を引き上げる動きも散見される(「「物流2024年問題」は物流コストにどんな影響を与えたのか?物価上昇と比較して見えてくる“現実”、価格転嫁はできているのか」)。実態に伴わない値上げも是正されるべきことの一つだろう。
一方で、為替レートを金融政策で動かすことには困難がある。トランプ大統領は、日本に5500億ドル(80兆円)の対米投資を求めている。日本の資本がアメリカに流出するということだ。資本の流出は円安要因である。こういう状況の中では円高にするための金融引締め政策はさらに厳しいものとならざるを得ないだろう。
低金利が日本の生産性を引き下げるのか
低金利が生産性の低い企業の新陳代謝を遅らせて日本全体の生産性を引き下げる、という議論がある。確かに、金利を上げれば低い金利でしか生き残れない、おそらく生産性の低い企業は破綻する。残った企業は、生産性のより高い企業だから、日本全体でも生産性が高くなるような気がする。
しかし、破綻した企業に雇われていた労働者はどうなっているのだろうか。失業していれば何も生産することができないのだから生産性はゼロである。人口当たりの生産物で考えるべき日本全体の生産性は低下してしまう。
第一生命経済研究所の星野卓也シニアエコノミストは、大胆な金融緩和のアベノミクスを期に、失業者が雇用されたことによって日本全体の生産性が上昇したことを示している(星野卓也「第4章 高圧経済政策が労働市場にもたらした好影響-アベノミクス期の経験から」、原田泰・飯田泰之編著『高圧経済とは何か』金融財政事情研究会、2023年)。
低金利で生き残る企業を増やせば労働需要が活発になり、労働者はより高い賃金のところに移動できる。高い賃金を払える企業は生産性の高い企業だから、日本全体での生産性は上昇する。この場合、失業は生まれないので、日本全体の生産性が高まる。
低金利による景気拡大は生産性を上昇させる。必要なのは、そうした生産性の高い企業が内部留保をため込まずに、適切な投資をしてもらうことだ。低金利のメリットをより日本経済に寄与することができる。
以上3つの理由により、金利引き上げが必ずしても物価上昇を食い止めるわけではない。対策として別に行うべきことがいくつもある。物価が基調として2%を超えるまで待って金利を上げるので十分だ。
