テレビ画面からは伝わりにくいが、他の選手とは一蹴りの伸びが違う。滑らかなスケートで広いリンクを縦横無尽に舞い、迫力のあるジャンプのランディングで糸を引くようだ。
重圧で思わず涙も、出し切る実力
全日本最終6組では、4選手がトリプルアクセルを組み込み、ジュニアの島田麻央選手(木下グループ)は果敢に4回転に挑んだ。自身にはない大技を携える若手に対し、一つずつのエレメンツを丁寧に磨き上げた「完成度の高さ」で受け止めた。
ショートプログラム(SP)は2位に僅差のトップ。「愛の讃歌」で舞うフリーに、現役最後の全日本での5連覇と五輪3大会連続代表の切符が懸かった。
「不安が90%ぐらい」。演技前には重圧で押しつぶされそうになり、思わず泣いてしまったという。
「花織がここでやらないと、日本が大変なことになる」
こんな言葉で渇を入れたのは、幼少期から指導してきた中野園子コーチだ。
坂本選手は「すぐに涙が引っ込んで、『そうだ!やらなきゃな!』という気持ちに切り替わりました」と気合を入れ直し、女王にふさわしい演技につなげた。25年の全日本を締めくくる最終滑走での演技で、まさに観客の視線も釘付けにしたのだ。
流麗なダブルアクセル(2回転半ジャンプ)は、ジャッジの半数以上が満点の評価をつけた。スピードに乗ったスケーティングで躍動し、スピンもステップも最高難度のレベル4。磨き上げた表現面は、10点満点の演技構成点が3項目全てで9.5点以上と高い評価を得た。
会場内では、坂本選手の背中を追いかけてきた若手も、同時代に切磋琢磨した“戦友”たちも女王の演技に熱い視線を送った。小学校のころから一緒だった三原舞依選手(シスメックス)が祈るように手を組み、北京五輪にともに出場した樋口新葉選手(ノエビア)が感極まる様子が映し出された。
坂本選手はフィニッシュで両手を高々と広げると、思わず顔を手で覆った。もう感情を抑えることができなかった。大粒の涙があふれ出た。リンクから出た坂本選手を中野コーチが抱きしめた。
厳しい指導の手綱を緩めることなく、幼少期から伴走してきた中野コーチは「あれだけ追い詰められて、一つでもミスをしたら若い子たちに負けてしまうという切羽詰まったところで(実力を)出し切れる人はなかなかいない。やっぱり強い」と最大級の賛辞の言葉で称えた。
