伝統工芸からの脱却
漆で全塗装した自動車をつくる
しかし、ことはそう簡単には運ばなかった。それまで、職人の経験や感覚が重要視されてきた漆の世界。佐藤さんが科学的に説明しても簡単に理解されるものではなかったのだ。
「例えば漆がなぜ乾くのか。それは空気中の水分から酸素を取り込み、主成分であるウルシオールの分子同士が結合することで固着するからです。これを『漆が乾く』と表現しますが、うちの父も含め、昔ながらの漆屋も塗師もきちんと説明できる人はほとんどいませんでした。化学構造もわかりませんし、説明がすんなり通じるわけもなかったのです」
そこで佐藤さんは大胆な行動に出た。自動車に漆を塗ったのである。実用性を証明することで伝統工芸業界以外の人にも漆の持つポテンシャルを広くアピールしたのだ。
「漆で全塗装した車を記者発表すると一挙に全国のメディアから取材が殺到しました。2003年の発表から1年ほど取材対応が続くほど大きな反響があったのです」
漆塗りの車で京都市内を走り回るとアパレル業者など意外なところからも声を掛けられ注目の的となった。
その後もマグネシウム合金のアタッシュケースや真珠などの宝飾品など思いもよらぬものに漆を塗った。また、新社屋のエレベーターの扉に塗りたいという北海道の会社社長の要望にも見事に応えてみせた。
こうして着実に実績を重ねていくと徐々に京都でも佐藤喜代松商店の取り組みが認められるようになった。
