2026年1月12日(月)

令和の京都地図

2026年1月12日

 漆は日本文化を象徴する重要な天然素材の一つであり、古くから我々の暮らしを彩ってきた。だが、ライフスタイルの変化や化学塗料の登場で需要は激減。バブル崩壊以降、漆産業は低迷の時代が続く。

 そんな苦境に敢然と立ち向かう漆屋がある。「漆のスペシャリスト」を標榜する京都・西陣の「佐藤喜代松商店」だ。伝統工芸品や一般的な漆製品に留まらず、アパレルや楽器、エレベーターなど幅広いジャンルの業界からコラボレーションの依頼が絶えない。

 そんな漆屋とはいったいどんな会社なのか。4代目代表の佐藤貴彦さん(50歳)に話を聞いた。

佐藤貴彦(Takahiko Sato)佐藤喜代松商店 代表取締役 1975年、京都市生まれ。2000年から02年まで、青年海外協力隊員として中米エルサルバドル国立農学校で活動。08年、京都府立大学大学院農学研究科博士後期課程単位取得中退。03年に佐藤喜代松商店に入社し、11年、同社4代目取締役に就任。( 写真・大西史晃 以下同)

 「創業は1921(大正10)年。曾祖父が丁稚奉公した漆屋に跡取りがなく、そのまま店を買い取ったのがはじまりです。国内外の産地から生漆を仕入れて精製・販売する漆専門の塗料メーカーです」

 そう言って紹介してくれたのは、漆のタンブラーだ。古来の漆の焼き付け技法を応用した新しい技術を開発し、真空魔法瓶構造のステンレスタンブラーに漆をコーティングした。

「COCOO」と共同開発した、漆コーティングの真空魔法瓶構造のステンレスタンブラー

 「これは、次世代の新たな漆器づくりに挑戦する合同会社『COCOO』さんと一緒に開発した製品です。今では一般的な魔法瓶の技術は本来もっと高く評価されるべきもの。その素晴らしさを再認識してほしいと思いコラボしました」

 驚くことに、食洗器にも対応しているという。漆器の手入れは難しいはずではなかったか、と尋ねると、笑いながらこんな答えが返ってきた。

 「漆は本来とても丈夫なものです。大量生産されていた時代、一部に品質面に課題が残る製品も出回りました。その頃に『漆器は水で洗ってはいけない』などとおかしな話が流布したのだと思います」

 事実、漆が丈夫であることは歴史を振り返れば明らかだ。美しい色合いと光沢を出す塗料としてだけでなく、優れた接着剤としても有用だった。染型紙、武具、仏壇、仏具に割れた器の金継ぎなどありとあらゆる工芸品の防水、補強、接着、錆止めなどに幅広く用いられてきた。

 それだけではなく、漆は軍事分野でも重宝される〝戦略物資〟でもあった。

 「平安宮の北西端。今の仁和小学校あたりには漆塗りを担当する『漆部司』という役所の工房があり、その東隣には武器を製造・管理する『兵庫寮』という部署が置かれていました。漆は武器に使われますから、徹底した朝廷の管理下に置かれていたのでしょう」


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