また一つ友好国を失う
まず確認しておくべきは、ロシアにとってベネズエラは、イラン、中国、北朝鮮と並んで優先度の高い同盟国だったことだ。中南米においては、キューバとともに、重要なパートナーだった。
25年5月の対独戦勝記念日に合わせてモスクワを訪問した際、ベネズエラのマドゥロ大統領はプーチン大統領を称賛の言葉で持ち上げ、ロシアを「人類の中核的な力」と呼んだ。この機会を捉え、両国は戦略的パートナーシップ・協力条約を締結。それが11月に発効すると、両首脳は電話会談を行い、プーチン大統領は、増大する対外的圧力の中で国益と主権を守るというマドゥロ政権の方針を支持するとして、アメリカの圧迫を受けるベネズエラに寄り添う姿勢を見せた。
そんなプーチン大統領にとり、パートナーシップ条約を結んだばかりの相手が、突如として権力を失い、ニューヨークの刑務所に収監される事態は、当然悪夢だ。中南米におけるロシアの影響力が低下することを意味するのはもちろん、プーチン個人にとってもプライドを傷付けられる事態である。
さらに言えば、アメリカによる今回のベネズエラ作戦は、ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始してからほぼ4年経っても達成できていないこと、つまり相手国の指導部を打倒することを、わずか数時間で成し遂げてみせた。結果的に、ロシアの国としての能力の低さが際立ってしまった。
ロシアは、同盟国アルメニアがアゼルバイジャンに敗れるのを傍観し、シリアのアサド政権の崩壊も防げず、イランがイスラエルやアメリカから攻撃された時も何もできなかった。そして、今度はベネズエラもあっさりと失った。
ロシアがウクライナでの戦争にのめり込んでいる間に、「ロシア=いざという時に働かない用心棒」というキャラクターは、国際的にすっかり定着してしまった。これでは、今後グローバルサウスから、ロシアを頼りにしようという国は、新たには出てこないだろう。
気になるのは、ロシアにとりより象徴的な同盟国であるキューバの今後である。ロシアにとってベネズエラは重要な資源パートナーではあっても、キューバのような戦略的象徴ではなかった。米国の軍事介入がもしハバナで起きていれば、モスクワははるかに強い反応を示したはずだ。ベネズエラ事件後、米トランプ政権はキューバへの圧力も強めており、注視が必要である。
面目を失ったロシア国防産業
ロシアは、肝心な時にマドゥロ大統領を救えなかっただけでなく、ロシア製の防空システムの性能の低さも露呈することとなった。ベネズエラの防空は、ロシア製のS-300、ブーク、パーンツィリ-S1といった防空システムに依存していた。ところが、米国のヘリコプターはほとんど抵抗を受けることなく防空システムを突破したようである。
かつてロシア国内のメディアで活躍し、現在は外国で活動しているジャーナリストのエッガート氏は、「最も大きな敗者の一つとなったのは、間違いなくロシアの国防産業である。より正確に言えば、地対空ミサイル防衛システムを製造している企業だ。ベネズエラ軍に大々的に引き渡されたこれらの鉄の塊は、米空軍によるカラカスへの電撃的空爆をまったく防げなかった。イランでの醜態後、半年も経たないうちに、ベネズエラで同じことが起きた。これらを製造しているアルマズ・アンテイ社にとり、明らかに由々しい事態だ」と指摘している。
これに対し、ドイツ系メディアの「ドイチェ・ヴェレ」は、ロシア製防空システムの性能が低かったというよりも、アメリカの巧みなハイブリッド攻撃により、それが無力化されたという側面を強調している。米軍は突入に先立ち、現地の電力網を麻痺させるサイバー攻撃を行った。これにより、米軍の爆撃機、ドローン、ヘリコプターが気付かれずに首都に接近し、主要なミサイル発射装置や通信センターなどを破壊できたのだという。
もっとも、ドイチェ・ヴェレによれば、ロシア製の防空システムの大部分が不適切なメンテナンスと部品不足で運用不能に陥っていたと見られるということであり、だとすればロシアの提供した防衛に落ち度があったことに変わりはない。
