2026年1月25日(日)

つくりびととの談い

2026年1月25日

 こうしたメカ的発想の極致を、串刺機の命・串ガイドに見ることができる。打ち出した串をこのガイドでしっかり支えることで水平な刺しが実現するのだが、ガイドの受け口は齋藤さん自ら手作業で削っている。

齋藤さんが「串ガイド」をつくる際に必須な4本のやすり。重要な部分ほど手作業が欠かせない

 「丸い棒状の串ではなく、持ち手が平たいピストル型の串がありますよね。その平たい持ち手が、平たい食材と並行になるよう刺すにはどうするか。ガイドの受け口の形状によって、串を回転させるのです」

 見た目は単なる溝に過ぎないが、45度の角度で打ち出されたピストル型の串が、受け口を通過するだけで見事90度に寝てしまうのだ。

 「ついでに言えば、うちの機械は摺動部にターカイト(樹脂)ではなくボールベアリングを使っているので、なかなか摩耗しないんですよ」

 構造がシンプルで、電子部品に頼ることなく、しかも肝心な場所には耐久性の高い部品を使っているから、コジマ技研の串刺機は壊れない。

 「先代はメンテで食おうと思っていなかったので、壊れにくいことをモットーにしていました。先日、修理依頼の電話を受けたら、なんと29年前に販売した製品でした。買い替え需要が少ないわけですよ」

 ただし、グローバル展開では強みになると齋藤さんは言う。

 「壊れないから、海外まで修理に出かける必要がほとんどないんです」

顧客満足度と商売
難しいバランスをどう取るか

 齋藤さんの話を聞いていて、斎藤幸平『人新生の「資本論」』(集英社新書)の一節が頭に浮かんだ。

 「だから究極的には、売れればなんだってかまわない。つまり、『使用価値』(有用性)や商品の質、環境負荷はどうでもいい。また、一度売れてしまえば、その商品がすぐに捨てられてもいい」

 コジマ技研の串刺機は腱鞘炎を起こすほど過酷な串打ち作業の負荷を軽減し、しかも壊れにくいから廃棄による環境負荷も少ない。本物のエコ製品に違いないが、抜群の「有用性」ゆえに買い替えのスパンが長くなるというジレンマを抱えている。

 超ニッチな市場だからこそ商売が成り立っているが、もしも「売れればなんだってかまわない」コンペティターが現れたら、いまの地位は危うい。

 再び、道弘さんがボヤく。

 「大手の家電メーカーさんに、ぴったり10年で壊れるものづくりの方法を教わりたいもんですよ」

 市場価値=売れることと、使用価値=有用性。つくりびとの心を満たすのは、果たしてどちらなのか。

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。
Wedge 2026年2月号より
世界を揺さぶるトランプ・パワー
世界を揺さぶるトランプ・パワー

1月3日、トランプ大統領は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で、ベネズエラに対する攻撃を成功させ、マドゥロ大統領を拘束したと発信し、世界に衝撃を与えた。自らを「平和の使者」と称していたトランプ氏だが、戦火の口火を切った格好だ。トランプ氏にとっては、犯罪者を拘束するための法執行をしたにすぎないという認識なのだろうが、議会の承認を得ていないほか、国際法に違反しているという指摘もある。 独裁者を追放するという帰結と、そのプロセスは別に考えなければならない。そうでなければ、「力による現状変更を容認しない」という、戦後80年かけて世界が営々と築き上げてきた共通認識を崩したロシアを誰も批判できなくなる。 そもそも、トランプ氏は積み上げられてきた「ポリティカル・コレクトネス」を否定し、ルールを決めるのは自分だと言わんばかりの行動をとってきた。まさに「トランプ・パワー」である。 そんなトランプ氏を大統領に再度選んだ、現在の米国の政治経済、外交、そして思想などをつぶさに見ていくと、我々が知っているかつての米国から大きく変貌していることが分かる。 それでも米国が日本にとって重要な同盟国にあることに変わりはない。米国とどう向き合っていくのか。世界だけではなく、日本こそ問われている。


新着記事

»もっと見る