あえて指摘しない巨匠と
誤りを先に知りたい青年
浜崎さんは眼光鋭く胸板の厚い、まさにザ・職人の風格をたたえた人物。質問への回答が簡潔明瞭だ。
仕事が速いのは?
「単品だとプログラムを入力する時間がもったいないから、俺の場合は手動でやった方が速いんだよ」
仕事が正確なのは?
「職人なんだからそれが当たり前」
休日には?
「釣り。昔は空手をやってたけど、8年くらい前からボディービルをやってるよ。体を鍛えるのは好きだね」
では、若手の教育方針は?
「先輩の仕事を見て覚えるのが基本。だから佐藤君が考えた手順が間違っていても、あえて指摘しないわけ。まずは自分が考えた通りにやらせて、間違いに気付いたところで、こうすればよかっただろうって教える。それが勉強なんだよ。でも、そろそろ慣れてほしい時期だよなぁ」
一方の佐藤さんは、色白で整った顔立ちの青年だ。経験年数6年。仕事に慣れないのは本当だろうか。
「ぜんぜんダメですね。自分なりに加工の手順を考えて固定してみるんですけど、考えが足りなくて、どうしてもセットし直す回数が多くなってしまうんです」
関鉄工所は、基本的に他社の部品(品物)の加工を請け負っている。工賃は時間数で計算するが、受注の段階で時間数の見積もりを出すから、実作業に時間がかかればかかるほど損をする。難しい品物の場合、佐藤さんの作業時間は浜崎さんの2倍以上にも達する。浜崎さんが言う。
「だから将棋と同じで、2手、3手まで先を読んで手順を考えなさいって、いつも言ってるんですよ」
佐藤さん、うなだれるかと思ったら、思いがけない強さで返した。
「自分には正解がわからないので、何工程か先で明らかに行き詰まることがわかっているなら、とりあえずやってみろじゃなくて、前もってここがダメだと教えてほしいんです」
そうやって先に答えを聞きたがらずに……。喉元まで出かかったが、佐藤さんの妙に切実な物言いが気にかかった。
