コスト逆転の「革命」
アフリカ豚熱の流行が沈静化し豚肉価格が高騰したことを受け、零細事業者は養豚に戻ってきた。結果、豚肉生産が過剰になり、24年秋以降、価格は下落トレンドに入った。スマート養豚はこの波を乗り切れるのか、真価が問われる。
正邦科技、傲農生物、天邦食品など、経営危機に陥った大型養豚事業者も現れている。だが、トップ企業は零細事業者に負けないパフォーマンスを示した。
中国養豚最大手・牧原食品のアニュアルレポートによると、同社の豚肉コストはスマート養豚が始まった20年以降に低下し、直近では1キログラム(kg)あたり11元(約250円)台にまで低下している。零細事業者を含めた業界全体では14元(約310円)台で、コスト面で優位だ。零細農家がコスト優位を持つという従来の常識は、すでに崩れた。
コストの大半は飼料でありその価格変動に左右される面が大きいが、零細事業者との価格競争に負けない競争力を備えたことは特筆に値する。また、PSY(年間母豚当り離乳子豚数)も大きく向上し、20頭台後半に達した。10年前と比べて約30%の向上で、中国の繁殖技術が着実に成長していることをうかがわせる。
牧原食品は2月、香港証券取引所に重複上場し、2000億円強を調達。その資金で東南アジアへの展開を強化する方針だ。
すべての中国大規模養豚事業者が勝っているわけではないが、筆者の予想を裏切り、零細事業者に打ち勝ち、前進する企業が現れているのだ。
中国農業の競争力を変える可能性
この流れは今後も続きそうだ。中国共産党中央は毎年、最初に発表する政策文書、通称「一号文件」で、農業問題を取りあげることが慣例となっている。今年の一号文件では「農業農村の現代化」をテーマとし、農業畜産におけるAIやドローン、IoT(モノのインターネット)など先端技術の普及加速を打ち出している。
中国農業は遅れている、日本は先進的という固定観念に縛られているのは危険だ。零細農家が支配してきた中国養豚業は、いま資本と技術によって再編されつつある。この「革命」は、中国農業の競争力を根本から変える可能性を秘めている。
日本でも、農林水産省が主導し、農業DXの社会実証が行われている。AIやロボット、IoTを活用した興味深いプロジェクトが多い。ただ、残念なのがそのほとんどがいずれも社会実証にとどまり、大規模な社会実装に移行できない点にある。
日本のテックは社会実証ばかりで、実装が進まないとはよく言われる話だが、農業も同じ罠に陥っている。隣国・中国が明確な結果を見せている中、日本も技術の開発や実証だけではなく、どう普及させるかについての真摯な取り組みが必要なのではないか。
