大資本の前に超えられない壁として立ちはだかってきたのが、零細事業者だ。アフリカ豚熱流行前は、中国の豚肉生産量の約6割は零細事業者によって占められていた。
自宅の庭で豚を飼うので設備費ゼロ。世話は家族がするので人件費ゼロ。飼料には残飯も加えるのでエサ代も安く上がる。
さらに、もっと驚きのコスト削減術もある。13年には上海市を流れる黄浦江に6000頭もの豚の死骸が漂流しているとのニュースが話題となった。日本でも取りあげられたので、記憶にある方も多いのではないか。
どんな怪奇現象が起きているのかと憶測が飛び交ったが、答えは簡単で、病死して食べられない豚をタダで処理する方法として川に不法投棄したのである。防疫対策はしないのでコストはゼロ……という原始的養豚の前に、コンプライアンス遵守が必要な大企業は太刀打ちできなかった。
物価を左右する「チャイナ・ピッグ・インデックス」
零細農家中心の養豚は防疫対策、環境対策として問題があるほか、物価安定という面でもマイナスだ。チャイナ・ピッグ・インデックスという言葉がある。
中国では豚肉は最も重要な食肉であり、消費量は全食肉の6割前後を占める。消費者物価指数(CPI)に占める豚肉の比重も大きく、豚肉価格の変動はそのまま物価全体を左右する。
中国のCPIが大きく上下する局面では、その背景に豚肉価格の急騰または急落があるケースが少なくない。このため市場関係者の間では、CPIの動きを「チャイナ・ピッグ・インデックス」と半ば揶揄的に呼ぶようになった。
なぜこのような現象が起きるのか。最大の理由は、養豚業の供給構造が零細農家に大きく依存してきたことにある。
零細農家は市場価格に敏感に反応する。豚肉価格が上昇すれば飼育頭数を増やし、価格が下落すれば採算割れを避けるために飼育を減らす。しかし、豚は出荷までに通常6カ月前後を要する。この時間差のため、価格上昇局面で拡大した供給は、需要が落ち着いた後に市場へ一斉に流入し、今度は価格暴落を招く。逆に価格低迷期には農家が生産を減らすため、一定期間後に供給不足となり、価格が急騰する。
こうして、中国の豚肉価格は周期的に急騰と暴落を繰り返してきた。この「猪周期(ピッグサイクル)」は中国経済全体のインフレ率を押し上げたり押し下げたりする要因となり、金融政策やマクロ経済運営にまで影響を及ぼす存在となっている。
大規模養豚業者による安定供給ならば、過剰な豚肉価格の急騰、急落は抑えられるはずだ。それもあって中国政府は大規模養豚の拡大を推進してきたが、失敗が続いてきた。今回も同じことが繰り返されるのではないか。
アフリカ豚熱が流行している間は、零細事業者は養豚をひかえるだろうが、流行が収まれば生産が再開し、大規模農家は再び苦境に追い込まれる。ましてや、養豚ビルなどコストが高い農業ならばなおさらだろう。
これが、筆者がスマート養豚の先行きを懸念した理由だ。
