「正しい道」を示すだけでは足りない
判断が下されたとしても、それだけで組織は動かない。判断を実行に移すプロセスにおいて、別の種類の能力が問われる。それが本書の中核概念、「マネジリアル・リーダーシップ」である。
西出氏はその本質をこう説明する。
「首長が決断するだけで現場がうまく動き出すわけじゃない。首長の『ヒト』への接し方や伝え方ひとつで、職員や外部関係者の潜在力、ひいては政策の貢献度はまったく変わるのです。
マネジリアル・リーダーシップとは、『示された道を正しく進ませる「てこ」の力』です。これは純粋なリーダーシップよりもっと実務に近い。「信念」というよりは「技術」」
リーダーとマネージャーの違いは、しばしば定義が曖昧なままに扱われる。だが西出氏は明確に区別する。
「一般的には、リーダーの役割は『道を指し示す』ということ、一方、マネージャーは導かれた道を正しく進ませることにある。だからリーダーとマネージャーとは本質的には違うんですよ。でも、方向性を示だけで社会は実際に動くことはなくて、示された道をどう進んでいくかっていうマネジメントの世界におけるリーダーシップが重要になってくる」
新型コロナ対応におけるマネジリアル・リーダーシップの4象限
西出氏は、マネジリアル・リーダーシップを4つの類型に整理している。
それが、「スピーディに判断する(スピード型)」「コンセンサスを得る(コンセンサス型)」「自らが率先垂範する(ハンズオン型)」「職員力の潜在力を引き出す(エンパワメント型)」である。
さらに対立する概念を状況適応型(スピード型とコンセンサス型)と協働実践型(ハンズオン型とエンパワメント型)の2軸に整理し、「新型コロナ対応におけるマネジリアル・リーダーシップの4象限」として整理した(図1)。
マネジリアル・リーダーシップには正解のスタイルがない。15人の首長たちは、それぞれ場面に合わせ異なる方法で自らのリーダーシップを柔軟に発揮していた。西出氏はいう。
「ゴールに向かって、時速何キロで走り続けるとか、どこで速度を落とすとか、いつ休憩をするかとか、それはもうマネジメントの世界です。全国の首長の中には、人がトイレ行きたくても我慢しろと言って時速百キロでビューンと飛ばして行く人もいるでしょうし、休憩をたくさん取る人もいるでしょう。」
インタビューでは、「巧遅は拙速に如かず」をモットーとした首長もいれば、人柄と誠実さによって関係者の気持ちを一つにした首長も登場する。しかし、ここで西出氏が強調するのは、首長のキャラクターを1つの類型に押し込めることのリスクである。
「どの首長だって、人の話ばかり聞いてはいられない時もあれば、訴えに耳を傾け過ぎることもある。スピード感を持ってやったからとって、うまくいかないこともある。インタビューの中での、『あの時のことは反省している』といった発言は、常に真剣勝負をしていた証なんだと思います」
もちろん、その時々の判断は首長の人間性にも依存する。科学では容易に説明できない部分でもあると指摘する。
「だから、マネジリアル・リーダーシップは、どのような危機的な場面で、どのような役割なりスキルなりを使い分けていたのか、また、使い分けがあり得るのかを整理するには意味のある概念といえるでしょう」
企業の中間管理職や経営幹部が求められているのは、「カリスマ的なリーダーシップ」よりも、こうしたマネジリアル・リーダーシップなのかもしれない。状況を読み、マネジメントの手法を使い分け、組織を前に進ませる。それが「動く組織」を作る実践的な能力なのだ。
