失敗を許さない社会が人材を殺す
バウンダリー・スパナーはシステムでは育たない。では、なぜ「人を見定めて配置する」という一見シンプルな答えが、現実には実践されにくいのか。
その背景には、制度や組織図の問題だけでなく、もっと根深い構造がある。首長たちがインタビューという場でしか語れなかった「本音」の存在が、それを象徴している。
議会答弁や記者会見という公式の場では、本音は語れない。失敗を認めれば批判を浴び、迷いを見せれば支持を失う。そうした制約の中で、首長たちは「正しいことを言う義務」に縛られ続けた。
「やっぱりオフィシャルコメントとか、議会答弁で(本書で語ったことを)言ったら、ハレーションが起きることもあったかもしれないですね。『そんな弱腰でいいのか』と言われてしまうかもしれない(笑)。済んだことだから話せるというものもあるでしょう」
では、なぜ本書では語れたのか。それはインタビューという「しがらみのない場」が設けられたからであり、それを成り立たせたのが「場の雰囲気」だったのでは? と西出氏は言う。
「聞き手側でフランクに話せる状況作りを心掛けた。その結果、記載できない面白話も含め、初めて語られたエピソードもたくさんあったと思います」
この問題は首長に限らない。失敗を許さない社会になればなるほど、人々は「失敗をしないこと」を行動原則の第一に置くようになる。
「社会が不寛容だから、何事も慎重に話さざるを得ない。失敗から学ぶ組織なんて役所が言ったら、現実には袋叩きにあうんです。なんで失敗するんだとね。
いや、この失敗は来年に結びつける。頑張りますって言っても、誰も許してくれない。『失敗したら責任取れ』という言葉が最初に出てしまう。また頑張ってね、なんて言ってくれる人は、誰もいない」
こうした環境では、「この人なら任せられる」と見極めた人材も、動けなくなる。バウンダリー・スパナーの育成を語る時、組織の内側だけでなく、社会全体の「寛容さ」を問わなければならない理由がここにある。
「人が育つ場」をどう設計するか
西出氏はリーダーシップの本質について、次のように語る。
「やっぱりリーダーシップって難しいんです。人を動かす話でしょう。人を動かすには、強制するか、インセンティブを与えるかのどちらかです。強制の場合はシステムが必要です。インセンティブの場合も褒章などのシステムは重要だが、人のパワーを何倍にも拡張させるのは、リーダーシップこそのなせる業だと思う。
人は、言葉や態度といった、他の人が発するもので大きく左右される。だから科学的な議論の他にも、トップがどのように振る舞ったのか、その足跡を整理することは重要なのです」
本書を執筆した動機の一つには、企業における組織論への示唆があるという。
「この本を読めば、人を動かす力の重要性に気づいてもらえるはずです。周りがどう考えているかを汲み取り、そのうえで、どう巻き込んでいくか。何が正しいかというよりも、多様な視点や正しさがあることに気づいてもらえたら、それが書き手として冥利に尽きる部分ですよね」
組織の実行力とは、トップの強さだけで決まるものではなく、その周囲にいる人材の多様性と、彼らをつなぐ力によって生まれる。首長たちの経験は、その事実を雄弁に示している。
「誰が決め、誰が実行し、誰がそれを支えるのか」――マネジリアル・リーダーシップとは、その配置を整え続ける営みにほかならない。複雑な時代を生き残る組織の条件は、ここにある。
