私は半ば冗談交じりに自分を「ガンファイター」と呼んできた。病気に押し流されるのではなく、状況を観察し、仮説を立て、試し、修正しながら前に進む。その姿勢は、夜間頻尿に対しても同じであった。医師の助言はもちろん重要である。しかし、それだけでは埋まらない生活の細部がある。自分の体調、自分の癖、自分の生活習慣を最も精密に観察できるのは、結局のところ自分自身しかいない。
そうして私は、頻尿と睡眠不足の背景を一つずつ整理していった。腎臓の働き、水分の巡り、食事の時間、寝室の温度、足に溜まる体液、排尿のタイミング。すると、症状がただの「困った現象」ではなく、一つの仕組みとして見えてきた。そして試行錯誤の末に、私は五つの知恵にたどり着いたのである。
第一の知恵 水分は「量」より「時間」で制御する
一般には「高齢者は脱水に注意」と言われる。これは正しい。だが、その言葉を真面目に受け止めるあまり、夕食後から就寝直前までお茶や水をだらだら飲んでいては、夜中にそのつけを払うことになる。身体は夜のうちに余分な水分を尿として処理するからである。私は日中にしっかり水分を取り、夜は就寝2時間前までに主な補給を終えるようにした。すると夜中のトイレの回数は、目に見えて変わった。水分は必要だが、飲み方には知恵が要るのである。
第二の知恵 夕食は「満足」より「回復」を優先する
闘病中や手術後は、食欲が戻るだけでも嬉しい。つい、食べられるときに食べておこうと思う。しかし、遅い時間の食事、塩分の強い料理、アルコール、カフェインは、夜の身体に余分な仕事を背負わせる。塩分が多ければ喉が渇き、水分摂取が増える。アルコールやカフェインには利尿作用がある。胃腸が夜遅くまで働けば、睡眠も浅くなる。私は夕食を就寝3時間前までに済ませ、量も内容も軽く整えるようにした。豪華さではなく、翌朝の目覚めを基準に夕食を考えるようになったのである。これが病後の身体には意外なほど効いた。
第三の知恵 排尿は一度で終わらせず、「二回排尿法」を使う
これも経験して初めて分かったことだが、寝る前に一度トイレに行っただけでは、意外に膀胱が空になっていないことがある。そこで役に立ったのが「二回排尿法」である。就寝前に一度排尿し、少し時間を置いてもう一度トイレに行く。たったこれだけのことで、残尿感が減り、最初の中途覚醒までの時間が延びた。薬でもなく、器具でもなく、生活の工夫にすぎない。しかし、こうした地味な知恵こそが夜の安定を支えるのである。
第四の知恵 寝室は「温度」で設計する
身体は冷えると尿意を催しやすい。理屈として知っていても、実際には軽視しがちな点である。ところが、寝室が少し寒いだけで、夜中の覚醒は確実に増える。特に足元や下半身が冷えると、尿意と覚醒が結びつきやすい。私は寝室の温度を見直し、寝具の重さや足元の保温を細かく調整した。病院用ベッドと自宅のベッド、東京と京都の住環境の違いも経験する中で、寝具と室温のわずかな差が睡眠の質を左右することを痛感した。睡眠とは精神論ではなく、極めて物理的な営みでもある。
第五の知恵 足に溜まった体液を夜に持ち込まない
最後にたどり着いたのが、足やふくらはぎに溜まった体液の問題である。日中、重力によって足にたまった水分は、横になることで体幹へ戻る。その水分を腎臓が処理すれば、夜間の尿量は増える。高齢者に夜間頻尿が多い背景には、こうした体液循環の問題がある。そこで私は、夕方から就寝前にかけて足を少し高くして休む、軽く足を動かす、長時間座りっぱなしを避けるといった工夫を取り入れた。これは単純だが理にかなっている。夜中に何度も起きる原因が、単に膀胱だけにあるのではなく、日中の体液分布にまで及んでいると分かれば、対策は一段と立体的になる。
